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神さま、あと三日だけ時間をください。

第3章 ♭ミュウとシュン~MailsⅡ~♭

「クーラーももう年季物のボロだから、ろくに効いてないだろう? まあ、ないよりはマシって程度で」
 シュンは笑いながら言うと、器用に大きなスプーンで器に雑炊を盛りつけた。
 卵と醤油出しの混じり合った何とも食欲のそそる匂いが部屋中に満ちてくる。不思議と先刻まで美海を苛んでいた吐き気は嘘のようにおさまった。
「可愛い、このお茶碗」
 小振りな茶碗には白地にピンクの猫のイラストが入っている。
「いちおう、俺のとお揃い」
 と、板場から別の茶碗を持ってくる。確かに大きさも同じで、猫の色がブルーなところだけが違っている。
「百均で買ったんだよ。貧乏学生だから、できるだけ抑えられるところは抑えてるんだ。何しろ彼女いない歴も長いし、ミュウと付き合うようになってから、すぐにペアの茶碗なんて買ったって言ったら、マジで引かれちゃうかな」
「嘘、シュンさんならモテるんじゃない?」
 心からの科白だ。シュンを初めて見た時、誰かに似ていると思ったものだが、なかなか思い出せなかった。後に、大手のコンビニがよくテレビで流しているCMを見て、〝この俳優だ!〟とピンと来たのだ。
 彼は韓流スターのチャン・グンソクに似ている。
 シュンは美海の言葉を笑い飛ばした。
「まさか。そりゃあ、女の子と付き合ったことがないと言えば嘘になるけど、前の彼女と別れたのはもう四年前になるよ。それからは全然、哀しいくらいに女っ気なしだもんな」
「立ち入ったことを訊くようだけど、何で別れたの?」
 シュンが嬉しげに相好を崩した。
「なに? ミュウは嫉妬してるんだ?」
 美海は頬を膨らませた。
「気にならないはずはないでしょ」
 自分でも判ってはいた。自分は本当は、彼にこんなことを言う資格は微塵もないのだと。美海はシュンの彼女ではないし、ましてや、将来的には何の約束もできない立場なのに、彼を束縛する権利なんてあるはずがない。

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