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神さま、あと三日だけ時間をください。

第3章 ♭ミュウとシュン~MailsⅡ~♭

 美海は勢い込んだ。元々ミーハーな美海はこのテの話題になると、俄然張り切ってしまう。
「地区でも優勝した」
「じゃあ、全国大会にも出たの?」
「俺はイヤだって、さんざんゴネたんだ。全国大会ってのは、各大学で実施されたコンテストの優勝者がまず地区に出て、更に地区で選抜されたヤツが全国区に出るから。別にそういうのに出たいわけじゃなかったし、むしろ、出たくなかった。鬱陶しいだけだからね」
「でも、出たんでしょ」
「あれは強制だったな。大学のコンテスト事務局に泣きつかれたから、仕方なくって感じ」
「また、優勝したの?」
 これにはシュンが笑った。
「まさか、俺程度で優秀するわけないよ。うーんと、確か五位か六位だったんじゃないかな。まあ、入賞はしたから、コンテスト事務局の連中には面目は保てたのが救いだったけどね」
「凄いわ。全国大会で入賞だなんて」
 うっとりとしていると、シュンの視線に気づいた。まるで本物の恋人を見つめるかのような優しい眼だ。
 途端に心臓がどドキンと撥ねる。
「意外だね。ミュウがそんな話で盛り上がるなんて想像もしなかった」
「いやだわ。私ったら、若い子みたいにはしゃいだりして。みっともないわね」
 美海が紅くなると、シュンの瞳がいっそう優しげに細められた。
「そんなことない。凄く可愛い。それに、ミュウはまだまだ十分若いよ。だって三十二だろ」
 美海の胸がまたツキリと痛む。自分はこの優しい青年を騙している。本当は自分は三十二歳なんかじゃない。三十九歳にもなる、冴えないただのオバさんなのに。
 それに。美海の胸許のアザに気づいていないはずはないのに、あれから彼は何も訊いてこない。つまり、シュンは気づいているのに、わざと気づかないフリをしているのだ。
 美海がまた物想いに沈みそうになった時、シュンが唐突に言った。
「ミュウ、ちょっと」
 え、と、美海が顔を上げたまさにその瞬間、シュンの手が伸びてきて、美海の顎を捉えた。
「じっとして、動かないで」
 しっかりと顎を捉えられたまま、美海は戸惑っていた。その間に、シュンの顔が近づいてくる。

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