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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

♭切ない別れ♭

 マンションに辿り着いたのは、午後五時近かった。おかしなもので、習性というか習慣は怖ろしいものである。琢郎とあんなことがあっても、美海はN駅の近くのデパ地下で惣菜を幾つか買い求めた。
 時間的にはさほど遅いとはいえないけれど、心身ともに色々ありすぎて、身体がついてゆけなくなりつつある。が、琢郎のことを思えば、夕食を拵えなければならない。
 琢郎は結婚前から、一人では何もできない男だった。その点はシュンと対照的である。琢郎も親許を久しく離れていたから、その点はシュンと同じはずなのに、自炊というものを全くしなかった。なので、美海と付き合うようになってからは、美海がしょっちゅう下宿を訪ねて洗濯や掃除、料理などをしたものだ。
 そのせいで、琢郎は同じ下宿の住人たちからは学生結婚をしていると勘違いされていたという笑えない話まである。もっとも、琢郎とシュンでは十九歳の歳の差があるのだ。
 殆ど父と息子のように年齢差がある二人を比べてみても、意味はないのかもしれない。今時の若い子たちが肉食系女子、草食系男子と呼ばれるように、今の時代は男女が逆転しているのだろう。シュンはまさに今時の若者だ。炊事は苦手と言いながら、あり合わせの材料で器用に雑炊を作ったところを見ると、家事はお手のものに違いない。
 家の中も男の一人暮らしにしては実に整頓され、掃除も行き届いていた。几帳面な彼の性格をよく表している。琢郎の下宿はいつも足の踏み場がないくらい散らかっていた。美海が行く度にそれなりに片付けて帰るのに、三日後訪ねてみたら、また、以前の惨状に戻っている。
 それは今でも変わらず、美海がいなければ、本当に下着やワイシャツのありかすら判らないような男なのだ。
 いつしか自分でも知らない中に、琢郎とシュンを比べている。そう気づき、美海は愕然とした。
 気分を取り直し、マンションのエントランスを抜けエレベーターに乗る。九階を押すと、エレベーターがゆるやかに上昇を始めた。
 九階で降りて、敷き詰められた絨毯の上を歩く。このマンションは超がつくほどではないが、ここいらでは高級マンションと呼ばれているのだ。

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