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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

「もしかして、高所恐怖症ってヤツ?」
「そのとおり。だから―」
 言いかけたところで、いきなりジェットコースターが滑り出し、シュンが悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと、これは凄ぇ、やべえよ」
 結局、下に降りてしまうまで、シュンはまるで女のような金切り声を上げ続けていた。すぐ後ろの若い女の子数人のグループがクスクスと忍び笑いをしているのも聞こえた。
 ジェットコースターが水上めがけて着水した瞬間、シュンは何も言わなくなった。美海は彼が眼を回しているのではないかと心配したのだが、流石に失神まではしていなかった。
 スタート地点までやっと戻ってきて、二人は係員の誘導でジェットコースターから降りた。
「俺、もう二度とこのジェットコースターには乗らない」
 シュンがまだ蒼白い顔で恨めしげに言った。美海はもう、笑いが止まらない。
「何で、そんなに嬉しそうに笑うんだ?」
 シュンが恨みがましい眼で掬い上げるように見つめてくる。
「だって、シュンさんったら、もう凄いんだもの。皆、ジェットコースターよりもシュンさんの絶叫の方に愕いてたみたいよ」
「ああ、どうせ俺は臆病者ですよ。後ろの女の子たち、めっちゃ笑ってやがった。畜生、最近の中学生ときたら、失礼なやっちゃ。今時の若いもんは礼儀も知らんのやな」
 自分だってまだ二十二歳の癖に、大人ぶって言うシュンが微笑ましい。
「久しぶりに出たわね。シュンさんの大阪弁」
 美海が笑いながら言うのに、シュンは顔をしかめた。
「せやけど何が失礼いうて、ミュウがいちばん失礼やで。俺のこと、そんなに笑わんでもええやないか」
「高所恐怖症なら、初めからそう言えば良かったのに」
「ミュウが乗りたいっていうから、我慢したんだよ。それにジェットコースターにいちばん最後に乗ったのは中二のときだから、流石にもう克服してると思ったんだ!」
 自棄のように言うシュンに、美海は〝はいはい〟というように頷いた。
「判りました、判りました」
「あー、その顔。全然、反省してないだろ」
 シュンがむくれたように言い、美海は笑いながら首を振った。

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