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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

 やがて、観覧車が地上に到着する。シュンが先に降りて手を差しのべてくれたが、美海は首を振り自分一人で降りた。
 それからの二人は殆ど喋らなかった。遊園地を出て、近くのIホテルに行き、フロントでチェックインする。Iホテルはビジネスホテルを少しマシにした程度のホテルだ。
 フロントで手続きを済ませていると、シュンと受付係の男性との会話が美海の耳に飛び込んできた。
「それでは、ご予約どおりツゥインでお部屋を一室ご用意しておりますので、これからご案内致します」
その瞬間、美海は慌ててフロント係に言った。
「済みません、お願いしたのはシングルで個室二つのはずですけど」
 中年のフロントマンは銀縁眼がねの奥の細い眼を訝しそうに細めた。
「いいえ、私どもがご予約の際に承っておりますのは、ツゥインで一室でございますが」
 美海は信じられない想いでシュンを見つめた。
「シュンさん、これはどういうことなの? 私は二人別々の部屋を取って欲しいと頼んだのに」
 好奇心剥き出しにしているフロントマンを尻目に、シュンは美海を引っ張って歩き出した。
「シュンさん、腕が痛いわ」
「だったら、お願いだから、今は騒がないでくれ。君も見せ物にはなりたくないだろ」
 美海は仕方なくシュンの後について大人しく歩いた。
「ねえ、これはどういうこと? 私は―」
 二人の部屋は三階だ。エレベーターに乗って三階に着くやいなや、シュンが叫んだ。
「ミュウ、幾ら世間知らずっていったって、女が男の誘いに乗って泊まりがけの旅に出るってことが何を意味してるかくらいは判るだろう?」
 シュンがいつになく激高した様子で続けた。
「俺が今夜、君を抱かないとでも思ってたのか? 君と二人だけの時間を楽しみたいって気持ちもむろん十分にあった。でも、男が惚れた女と泊まりの旅に出るのに、夜に期待しないはずないだろう? 正直にいえば、ミュウの身体が目当てでこの旅に誘ったって言っても良いんだぞ」
「私はそんなつもりで来たのではないのに」
 ミュウの眼にまた涙が滲んだ。

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