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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

「そんな馬鹿げた言い分が通じるとでも思ってるのか? それとも、最初から俺をからかうつもりでこの旅行に応じたっていうの?」
 シュンが言い終わらない中に、三〇一号室と記されている扉が開いた。五十過ぎの男が胡散臭げに二人を眺めて通り過ぎていった。
「とにかく中に入ってから話そう」
「いやよ、中には入らない」
 しかし、シュンの圧倒的な力の前では、美海の抵抗など難なく封じ込められてしまった。
 美海は引きずられるようにして向かいの部屋に引き入れられた。
「シュンさん。私の考えが足りなかったのは謝るわ。あなたの気持ちを傷つけるつもりはなかったし、ましてや、からかうつもりなんて毛頭なかった。ただ、あなたと一緒の時間をゆっくりと楽しみたかったから、私はここに来たの」
「どうして俺に抱かれたくないんだ?」
「―」
 美海が黙っていると、シュンが振り絞るように言った。
「君が人妻だからか? 俺より旦那の方を取るから、俺に抱かれるのはイヤなのか?」
 思わずヒュッという息が洩れた。
 やはり、シュンも気づいていたのだ―。
「旦那を裏切りたくないから、俺とセックスはしないんだろ」
 美海は唇を噛みしめた。あまりに強く噛んだせいか、鉄錆びた味が口中にひろがる。
「裏切るという意味では、私はもう、とっくにあのひとを裏切っているわ。シュンさん、私があのひとよりあなたを愛していることは自分でも嫌になるくらい判っている。でも、愛だけでは幸せになることは難しいの。あなたはまだ二十二歳よ。これから幾らでも出逢いはあるし、あなたにふさわしい若い女の子と幸せになる機会はある。それが判っていて、私はあなたをみすみす不幸へと道連れにすることはできない」
「そんなのは所詮、その場逃れの言い訳だ! ミュウは旦那に隠れて息抜きがしたいがために、俺を相手にしただけなんだ」

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