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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

「あなたをただ利用しようとしただけなら、私はこんなところまで来なかった。きっと、四日前に、あなたとはもう逢わないと言ったはずよ。なのに、私は世間が自分をどう見るかを承知の上で、ここに来た。自分でも馬鹿な女だと思う。ここに来るまでにも、何度も自分に言い聞かせてきたの。これが最後だから、シュンさんと想い出に残る―一生の宝物になるような素敵な旅にして、一つでも良い想い出を作ろうって」
「嫌だ。俺は絶対に嫌だ。ミュウを手放すくらいなら、今、ここで君と死ぬ」
 シュンの声が震えた。
「馬鹿なことを言わないで。あなたの夢はどうなるの? いずれは牧場を経営するオーナーになりたいんでしょ」
「でも、その夢が実現した時、君は俺の側にはいない。俺の知らない、顔を見たこともない誰かの側にいるんだ」
「身体は側にいなくても、心はずっと、あなたの側にいるわ」
「綺麗事を言うなッ」
 シュンが怒鳴り、美海の腕を掴んだ。
「俺は今夜、ミュウを抱く」
 宣言するかのように言うと、美海をまたベッドまで引っ張っていき、ベッドに乱暴に押し倒した。
「ミュウ、お願いだ。俺を受け容れて」
 シュンは美海の両手を持ち上げ、ベッドに縫い止めた。
「好きだ、好きなんだ。他の誰にも渡したくない」 
 どこまでも悲愴な声。
 切なげなまなざし。
 美海の心もまた切なく揺れた。
 こんなに切なく訴えられては、美海の覚悟も脆くも崩れてしまいそうだ。
 こんなに好きなのに、大好きなのに。
 私はこの男の傍にはいられない。
 何故か、それがとても理不尽なことのように思える。
 今、ここでシュンに身を任せること自体は容易かった。でも、夢は一夜で終わる。
 夜明けとともに夢が終われば、最も哀しくて残酷な宿命が待っている。それは単に美海だけのものに限らず、琢郎も、シュンも。
 すべての人を巻き込むことになるだろう。
 ならば、折れそうな心を奮い立たせて、シュンを拒み通すしかない。たとえ、どんな冷酷な女だと罵られようと、最初から遊びだったのだと蔑まれようと、覚悟を貫くしかないのだ。

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