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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

 いや、彼と出逢い系サイトで出逢ったときには、もう美海の胎内の奥深くでは新しい生命が息づいていたのだ。美海がそもそも出逢い系チャットの掲示板を開く羽目になったのも、あの直前に琢郎にセックスを強要されたのが原因だった。辛くて、どうしようもなくて、やりきれない気分だった時、シュンのメッセージが眼に飛び込んできたのだ。
 琢郎とのことがなければ、美海がサイトを覗くこともなかっただろうし、シュンのメッセージを見つけることもなかった。
 シュンとの出逢いには、始まりから別離が透けて見えていた。そのことに二人ともに気づかなかった。それが不幸の始まりだったのかもしれない。
 それから美海はシュンと共に再びフロントまで戻り、近くの薬局とコンビニまで行った。シュンに引き裂かれてしまったブラウスの代わりになりそうな安物のブラウスをコンビニで買い求め、それから薬局に寄った。
 買い物にはパジャマ代わりの部屋着として持参していたTシャツを着た。
 ブラウスの入ったビニール袋と小さな紙袋を抱えて三階の部屋に帰ってきて、美海はトイレに入った。小さな薬局で買い求めたのは、簡易妊娠検査薬だ。尿検査だけで、ほぼ百パーセントの割合で妊娠しているかどうかが判る。
 反応が出るまでに数分はかかるので、美海はしばらくじいっと待っていた。以前もこのタイプの検査薬なら、何度か使ったことがある。もっとも、その度に反応は全くなく、美海は声を殺して泣く羽目になったけれど。
 反応が出る間、美海は眼を閉じていた。数分が経過した。小さなスティック状の検査薬を握りしめていた美海はゆっくりと瞼を開き、検査薬を見つめた。
 検査薬の反応窓のところには、くっきりと陽性を示す赤紫の線が現れていた。
 言葉にならない感情が美海の中に込み上げた。シュンに心を傾けてしまった今、琢郎の子どもを身籠もったことが果たして幸せなのか、判らない。ずっと欲しいと願っていた子どもだった。
 美海は静かにトイレから出た。美海を見て、シュンが物問いたげな視線をくれる。
 美海は消え入りそうな声で告げた。
「シュンさんの言うとおりだったみたい」
 そのときのシュンの表情を美海は一生、忘れないだろうと思った。

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