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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

 妊娠を告げたときのシュンの端正な面には、実に様々な感情がよぎっていった。戸惑い、諦め、怒り、落胆―。
 シュンは泣き笑いのような表情で呟いた。
「そっか。おめでとうって言うべきなんだろうな」
 シュンは言い終わらない中に、しゃべり出した。
「俺には上に二人の姉貴がいるんだ。どっちもとっくに結婚して子どももいる。姉貴たちが妊娠してたときに、結構悪阻が烈しくてさ、上の姉貴なんて殆ど何も食べられなくて入院して点滴までしたんだ。下の姉もそこまでじゃないけど、里帰りして悪阻が治まるまでは養生してたから。君の様子がそのときの姉貴たちにそっくりだった。だから、まさかとは思ったけど、妊娠してるんじゃないかと思ったんだ」
 確かに、大切なことだから、すぐにでも薬局にいって確かめた方が良いと言い出したのはシュンの方だった。
 シュンは、まるで沈黙を怖れているかのようにしゃべり続ける。
「生まれてくる赤ん坊から、父親を取り上げちゃいけないよな。それとも、俺が父親になっても良い?」
 美海は何も言えなかった。シュンもまた敢えてその話を続ける気はなかったらしい。それは最初から美海が応えを返さないのを承知で、その話を持ち出した風にも見える。
 その夜、美海とシュンは一つのベッドで眠った。ナイトテーブルのスタンドが照らす室内は淡い闇に満たされている。寄り添い、手と手をしっかり繋ぎながら、二人は飽きることなく色々な話をした。
 小さな頃のこと。これまで生きてきた中で経験した嬉しいこと、哀しいこと。
 美海もシュンと出逢ってから初めて自分のことについて話した。もちろん、琢郎との出逢いや結婚生活については触れず、少女時代やOLとなってからの話に限られたが。
 これ以上は喋れないというまで語り尽くした後は、ただ黙って手を繋ぎ合っていた。 
「二度目に逢った日のことを憶えてる?」
 黙り込んでいたシュンが突如として沈黙を破った。
 美海は彼の傍らに横たわり、繋いだシュンの手を空いた方の手で無意識の中に撫でていた。

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