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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

よく憶えてるわ」
「あの日の別れ際、俺が何か君に訊こうとしたよね」
「ええ」
「あの時、君の胸許には、はっきりとキスマークがついていた。あれを見た時、俺は物凄く嫉妬したよ。俺の大好きな君をいつでも好きなようにできる男がいるんだって思い知らされた気がしたんだ。同時に、君にご主人がいることも知った」
 シュンはひとたび言葉を句切り、淡々と続ける。
「あの日、俺が一旦は君に投げかけた問いをすぐに引っこめたのは、俺自身が真実を知るのが怖かったからなんだ」
「何となく判ってはいたわ。私だって同じよ。あなたに真実を打ち明ける機会は幾らでもあったのに、とうとう最後まで言えなかった。今日言おう、明日話そうとずるずると先延ばしにしている間に、こんな形であなたが知って傷つくことになってしまった」
 少しの沈黙の後、美海は静かな声音で言った。
「私もシュンさんに言えなかったのは、最後まで〝あなたの好きな女の子〟でいたかったから」
 美海がシュンに真実を打ち明けられなかったのもまた、彼と離れたくないという一心からのものだ。切ない女心から発したものだったのだ。かといって、それがシュンに何も告げなかったことの言い訳になるはずがない。
「私は卑怯だった。自分だけが楽しい夢を見て、その夢が醒めるのが怖くて、あなたに真実を打ち明けられなかった。結果として、あなたをとても傷つけたわ」
 シュンがフッと笑った。
「傷ついたりはしなかったよ。いや、正直に言えば、少しは傷ついたかもしれないけど、俺はそれ以上にミュウに出逢えたことが嬉しくて、幸せだった。だから、君はそんなに悩むことも苦しむこともない。幸せな夢を見られたのは君だけじゃない、俺も同じだったんだから」
 いかにもシュンらしい、優しさと労りに満ちた言葉だ。傷つかなかったはずはないのに、そうやって美海の心に負担をかけまいと気遣ってくれる。
 美海は込み上げてくる涙をまたたきで散らした。
「俺にとって、美海はいつまで経っても可愛い女の子のままだよ」
 これには美海が微笑む番だ。

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