
温もり
第13章 九日目
洗剤の強い臭いが漂う中、零九の耳に入る音はブラシが濡れた床を擦る音と、鉄格子を拭く布の音と、それに伴う水の音だった。
満足に歩けない零九は重たい瞼を開き、流れる水を見る。痛みと絶望に塗れ、いつからかはとっくに認識できないが、長いこと水を飲んでいない気がする。食事はそれ以上に長く摂っていない気がする。
折れた指とじくじくと痛む足首を庇い、彼は床を這い、隣の檻から流れ出ている水に手を伸ばす。どう見たところで届くはずがないのだが、どうしても水が飲みたかった。
そんな様子の彼に、ニニ五が気づき、手を止めた。
喉が渇いているのだろうと即座に判り、ボトルを一本手にして、彼の目の前に置く。他のLLも気づいているのだが、チラリと見るだけで無反応だ。ここでは、これが当たり前なのだから。
「……ほら、こうして飲むんだ」
ボトルの口を開け、恐らく意味が判らないだろうと、傾けて中が出てくる事を示す。
だが、零九はそのボトルに手を伸ばさない。何故なら、それは漂白剤だからである。
「…………」
この展開は読めていた。こうなるだろうと解っていた。だが、実際にされると、言葉が出て来ないほどの衝撃を受けた。
零九は一度は反射的に手を上げたのだが、力なく床に落とす。
「……みずが、のみたいんだ……」
掠れる声で訴えると、ニニ五の表情が凍った。
満足に歩けない零九は重たい瞼を開き、流れる水を見る。痛みと絶望に塗れ、いつからかはとっくに認識できないが、長いこと水を飲んでいない気がする。食事はそれ以上に長く摂っていない気がする。
折れた指とじくじくと痛む足首を庇い、彼は床を這い、隣の檻から流れ出ている水に手を伸ばす。どう見たところで届くはずがないのだが、どうしても水が飲みたかった。
そんな様子の彼に、ニニ五が気づき、手を止めた。
喉が渇いているのだろうと即座に判り、ボトルを一本手にして、彼の目の前に置く。他のLLも気づいているのだが、チラリと見るだけで無反応だ。ここでは、これが当たり前なのだから。
「……ほら、こうして飲むんだ」
ボトルの口を開け、恐らく意味が判らないだろうと、傾けて中が出てくる事を示す。
だが、零九はそのボトルに手を伸ばさない。何故なら、それは漂白剤だからである。
「…………」
この展開は読めていた。こうなるだろうと解っていた。だが、実際にされると、言葉が出て来ないほどの衝撃を受けた。
零九は一度は反射的に手を上げたのだが、力なく床に落とす。
「……みずが、のみたいんだ……」
掠れる声で訴えると、ニニ五の表情が凍った。
