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温もり

第1章 嗚咽

 それ以上会話のしたくない零九は立ち上がり、二三九の脇を通って部屋から出る。

「零九!」

 二三九が呼び止めるが、彼は止まらない。

「零九、待って!」

 淀み無く歩く彼が、破滅に向かって歩いて行く様に感じ、彼女は追いかけるが、その気配に気づいて振り向いた彼の瞳に、その暗い瞳に、足を止めた。
 百番代と違い、ラディに憎まれて居ない二百番代の自分が、彼らに何も出来る事は無く、言葉を交わしても心を通わせる事は出来ないと、見えないが確かに重い物を背負っている零九の背中が物語っている。
 そして、強く握られた拳は、平気なフリをしているだけだと語っている。

「私達に出来る事はないの?」

 二三九は呟く。
 零九とニニが何を見てどう感じて居るのかは解らない。何をしているのかも殆ど知らない。

 でも自分達も同じ親を持つ兄妹として生まれたのだと、自分達も同じ様にいくらラディから寵愛を受けていても、研究者達からはモルモットだと認識されていると、二三九は言いたかった。
 言いたかったが、零九は恐らく自分の想像を越える物を背負って居るのだろう。それに耐えるので精一杯なのだろうと、あまりに容易に想像出来た。

「零九……」

 長い廊下を無言で歩いて行く彼を、彼女は結局、見ている事しか出来なかった。

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