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　ニニがこんなにも側に居たとは知らず、零九は驚きに硬直する。それを見てニニはクスクス笑いながら零九の隣に腰かける。

「あ、またミレイが買って来てくれたの？」

　まだ新しく、ラークの記事であると解ったニニは覗き込む様にして読みながら、会った事のない、年もあまりに近い父親の事を思う。

「私達の事、知らないのかな？」

　ポツンとニニは呟く。
　最初に彼の写真を見た時、あまりにニニに似ていて零九は寒気がしたのを覚えている。自分や兄妹達を見ても、彼があまり男臭いタイプではない事は解っていたが、それでも、似過ぎている。

「知らないだろうな。いや、知っていて欲しくない」

　口はニニの呟きに答えながら、零九の頭の中はある想像で一杯だった。
　研究所の外。街の中を何をするでもなく、ただ歩いている自分とニニ。
　ただそれだけで幸せだろうな、と零九は思い、肩が触れる程に近くにいる彼女の手をそっと握り、ニニも自然に握り返す。

「どうして？」

　零九の言葉の真意が読めず、ニニは記事を読みながら返す。
　二人で手を繋いで街を歩く。それが零九のささやかな夢だった。二人で家庭を築く、と言うのも確かにあるが、それよりも零九は、ニニと街を歩きたかった。

「知ってたとしたら、助けてくれない事を恨むから」

　握った手に少し力を込め、零九は何も知らない可能性の高い父親を見る。
　家庭を築く事はおろか、街を歩く事も、叶うはずの無い夢だと、零九は知っている。