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温もり

第3章 殺処分

 服に手を入れたのはどちらが先だったか。それは二人には関係のない事だった。
 触れる柔らかい肌は所々固くなり、線状になっている物や丸くなっている物もある。それが体に刻まれた殺処分の証であると知っている。そして、それは見えなくともお互いを認識する術にもなっていた。

 柔らかい双丘を跨ぐ薄い傷を辿り、実験の際に悪戯につけられた小さな火傷の跡を避けて、幾人もの男に弄ばれた箇所を、優しく触る。
 行為をしながら、零九は己の無力さを呪う。どんなに愛を囁いても、彼女を抱いても、彼女の体と心に刻まれた傷は癒せない。生殖実験だと言われ犯されて泣く彼女を抱いて、その傷を誤魔化してやる事しか出来ない。

「ニニ、俺の子供を産んでくれ」

 そっと囁いてみせるが、彼女にそれが出来ない事はお互い解っている。それでも、万一でも出来るなら零九の子供を産みたい、そう言って下腹部を触った彼女の思いを尊重し、自身の望みもそこに乗せていた。
 そろりとニニが零九の背中に手を回す。力の入っている彼女の手に従い、零九は彼女の覆いかぶさり、熱い肌を重ねる。

「零九……」

 名を呼ぶ唇から、断続的に甘い声が漏れる。嫌だと言いながら、決して拒絶しない。

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