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温もり

第3章 殺処分

 行為をしている時、女性を海だと表現していた物を零九は思い出していた。

 暖かく、穏やかな、暗い海。
 それはある意味言えてる、と彼は思う。
 吸い付く様な暖かい肌に包まれ、静かに快楽に沈んで行く感覚は、水に包まれていく様だ。そして、命を生み出したと言われる海と、子を産む事が出来る女性を重ねるのも頷けた。

「零九……」

 全くの暗闇の中、ニニは時折不安気に呼ぶ。呼ばれた彼は、荒い息をしながらキスをする。

「ここに居るよ」

 唇をしゃぶり、そっと答える。
 彼女は安心した様に全身の力を抜いて彼に身を委ねる。
 幾人もの暴行を受け続け、誰が誰なのか、傷跡を辿っても不安になるのだろう。だから、セックスしながらでも彼を確認したがる。

 君は一人にさせないよ。

 零九は強く思う。
 ニニに少しでも思いが伝わる様に、己に刻む様に。

 本当は、生きて欲しい。でも、君が一人になった時、ラディが君に何をさせるのかは解ってるんだ。君がそれで深く傷つくのも解ってる。
 生きたい。君とずっと生きたい。

 無意識にニニの手を握った手に力がこもる。思いが少しでも伝わる様に、伝わらない悔しさに耐える様に。

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