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温もり

第1章 嗚咽

 立った瞬間に疲労感に立ちくらみがして大きく体が傾ぐ。激しい運動に胸が痛い程に苦しくて、脱水症状でも起こしているのか、頭が痛む。

「ふふっ、疲れたならここで寝て行っても良いのよ?」

 ラディは溢れる精液を拭きながら嗤う。零九は彼女を睨みつけ、壁に手を着いてシャワールームに歩いて行った。

「ふふっ。嬲りがいがあるわ」

 クスクスとラディは笑う。その目には正気の色は残っていない。憎しみの狂気が渦巻いているだけだ。



 シャワーを頭から浴び、零九は小さく喉を鳴らす。歯型の残る唇を小刻みに震わせ、必死に嗚咽を堪えていた。

 俺が耐えれば、ニニは凌辱されない。俺が耐えてれば良いんだ。それでニニが休めるなら、それで良いんだ。

 自分に言い聞かせる零九だが、まだ十代の彼に母親との性交は耐え難い屈辱で、自分の身に迫る死の恐怖と、脆弱な心の恋人の先と、合成獣の殺処分と言う仕事も、次々に死んで行った姉と弟の事も、一切が重くのしかかっていた。
 泣けるのは、一人きりになれるラディとの性交の後のシャワーを浴びている一時だけ。それ以外は妹とずっと一緒で、それは苦痛ではないのだが、彼女の前では強い男でありたいと思っているので、泣く事は出来ない。

「ニニ……」

 彼女は素直に自分に甘えて、頼ってくれる。それがなんとも嬉しく、誇らしく、支えだった。彼女に想いを告げ、彼女の肌に触れた時の喜びは、今でもハッキリと覚えている。

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