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温もり

第3章 殺処分

 赤く腫れた彼女の手を優しく握り、零九は自分に魔法が使えれば、と思う。魔法が使えれば、こんな程度の怪我は一瞬で治せるし『実験』の際に悪戯につけられる怪我も傷跡も残らさずに治す事が出来る。
 だが、魔法は自身の身体能力を上昇させるだけの『乗の契り』しか知らない。殺処分の時に負う怪我はラディが治す上、魔法を覚えようとしてもラディがそれを拒んだ。理由はわからないが、彼女にとって不都合らしい。

「零九、痛いよ」

 考えている内に彼女の手を強く握っていたらしく、ハッとした零九は慌てて手を離す。そんな過剰な反応にニニはクスクスと笑い、彼の首にそっと手を回してもたれかかる。

「抱きしめて」

 その要望に、零九は黙って彼女の背中に手を回して、ギュッと抱きしめた。ニニも甘える様に手に力を込めて抱き合う。

「ずっと、こうしてたい」

 うっとりとニニは呟く。
 二人だけの世界があるとするなら、行ってみたいと思う。
 きっとその世界は寂しいだろう。それでも、その世界にはラディもいなければ、ニニを穢す男もいない。殺処分をする事もしなければ、研究所の外も自由に歩ける。
 そんな世界に行ってみたいと思う。誰にも邪魔されず、残りの命を気にする事も無く、出来る事ならば二人の子供を儲け、穏やかな毎日を過ごしたい。

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