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温もり

第3章 殺処分

 ニニの目が鋭くなり、一気に零九に肉薄する。流石に受け止めるのはキツそうだと判断した零九は屈んで避け、彼女の膝を棒で突く。さほど力は入っていないが、それでも彼女は僅かにバランスを崩す。
 だが、突かれていない側の足で床を蹴り、不安定ながらもその場から飛んで逃げる。その一瞬後に、脇腹を狙った一撃が空を切る。

 ニニは動きを止め、たった数分で息の上がった零九を見る。

「……大丈夫?」

 彼の体力の低下が激しい事に気づき、彼女は声をかける。彼は思ったよりも上がっている息に戸惑いの色を見せつつも、彼女には平気だと見せたくて、軽く棒を振る。
 が、握力も低下していたのか、棒は彼の手からスルリと抜けてどこかに飛んで行く。

「…………」

 重くのしかかる現実に二人は言葉を失い、ニニはやがて泣き崩れる。

「嫌だよ。やっぱり恐いよ零九」

 ニニは両手で顔を覆い、涙に濡れた声を発する。それは零九の胸に鋭く突き刺さり、その痛みに彼の目頭が熱くなる。自分の事で彼女を悲しませたくなかったのに、結局はそうさせてしまっている。

「絶対に独りにしないでね? 絶対だよ? ねぇ、お願い」

「うん。解ってるよ」

 彼女の泣き声を聞くだけでも辛い零九は、早く泣き止んで欲しいと彼女を抱き寄せる。

「死んでも一緒だからな」

 そう、愛を囁いた。

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