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温もり

第3章 殺処分

 うう……うああ……。

 まるで泣いているような彼の声が聞こえ、零九は重い足を引きずって彼に近寄る。
 生きているなら殺さなければ。そうしなければこっちが殺される。自分は殺されても良い。でも、ニニを殺すのは許さない。そんな思いから零九は彼に向かって歩く。

 彼はまだ生きていた。膨張した腹に刺さった角が抜けなかったのが悪戯に彼の命を永らえさせているようだ。しかも意識もしっかりしていて、零九と脱力したニニを見てる。

「ああ……」

 彼はそろりと零九に手を伸ばす。力も抜けるのだろう、小刻みに震える手を零九は跳ね除ける事が出来ない。涙と血を流し、それでも憎しみを宿していない瞳に、彼が自分に危害を加えると思えなかったのだ。

「あ、ああ……」

 彼は何かを語りかけている様だが、言葉を持たない彼が何を言おうとしているのか零九には解らない。ただ、彼は零九の頬を伝う涙に触れ、肩を掴んだ。弱々しく。

「ニニ……立てるかい?」

 零九は肩を掴む彼を見て脱力し、床にへたり込んだ彼女を呼ぶ。彼女は呆然とした様子だったが、零九と彼の様子を見て足元をふらつかせながら、刀を杖代わりに歩いてきた。

「あう……うう、あああ」

 彼はニニにも何かを語り、彼女の頬を撫でた。

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