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温もり

第4章 母

 部屋に残された二人は、互いを求める様に互いを抱き合う。

「もう、こんなの嫌だ……」

 嗚咽を漏らし、床に座ったままニニは零九を抱き締める。彼が自分の前で泣かない様にしているのは知っていた。

「ニニ……」

 謝罪も悔しさも無力感も、言葉に出来ない苦しみも全てがその言葉には籠もっている。
 彼女には自分がいないといけない。だが、同時に、自分には彼女がいないといけないと零九は知っていた。だから、今でもまだ彼女との約束を果たせずにいる。ラディが自殺を許してくれないのだから、彼女と心中すると言う事も出来ない。
 自分の死がハッキリ見えた時に彼女を殺す。
 零九はそう決めている。
 それが、誤りとも知らずに。

「零九……私、私……」

「良いよ。なにも言わないで」

 むせび泣き、しゃっくりを上げる彼女の頭を撫で、ギュッと強く抱きしめ、零九は彼女を殺す事を躊躇っていた。
 この地獄から彼女を救い出すには死を与えるしかない。それは解りきっている。

 でも、零九は彼女と一緒にいたかった。少しでも、一瞬でも、刹那でも長く。
 彼女の声も、彼女の肌も、彼女の匂いも、何もかもを感じていたかった。

 一緒に生きていたかった。

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