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温もり

第4章 母

 ニニを貪る様に求めたのは、その痛みを誤魔化す為だった。
 血まみれの服を脱がし、べったりと付いた血を掃除係が用意しておいてくれたタオルで拭う。顔から首、肩、胸部、腹部と順番に。
 ニニの体を拭き終えると、今度は彼女が零九の服を脱がせる。そして、同じ様に、愛撫するように血を拭っていく。

「……ニニ」

 ポロポロと涙を零している事に気づいて濡れた頬に優しく触れる。彼女は顔を上げ、言葉の出てこなかった彼は、口下手な自分の気持ちを伝える方法として、嗚咽を堪えて震えている唇に、自らの唇を重ねる。
 それから、背中に手を回し、男にはないくびれをなぞって引き寄せる。

 一つになる事が出来ないから、互いに庇い合い、存在を確かめる事ができる。
 一つになる事が出来ないから、二人で支えあう事が出来る。
 一つになる事が出来ないから、彼女に言えない事をしてまでも彼女を助ける事が出来る。

 一つになる事が出来ないから、二人で居ても孤独を感じる事があった。
 互いの不変を心から願いながら、それでも時の流れと共に変化して来ている事を感じていた。

 いっそ一人になれたら……。

 二人は心からそれを願っている。
 現実逃避だ、妄想だ、孤独な考えだと糾弾されても、頭ごなしに否定されても、二人にはどうでも良かった。そんな事は解りきっていた。

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