
温もり
第4章 母
ニニが落ち着いてから零九は彼女を励まし、服を着せる。
しゃっくりの止まらない彼女の目から涙は零れていないが、拭いきれない血の臭いと暗い表情に胸が潰される様な気になる。その痛みを誤魔化す為に零九は彼女を片手で抱き寄せて頭を撫で、頬にキスをする。
「俺が居るから……」
零九は囁き、ニニは頷く。
大丈夫、などとは口に出来なかった。愛している、とも言えない。ずっと側に居る、など口が裂けても言えない。
それらの言葉は最早彼女にとっては重荷になる事を零九は知っている。自分の気持ちとしては何度でも何度でも口にしたかったが、死がはっきりとした形で見えてしまった今は、その存在の大きさにこの愛しさも飲み込まれてしまう。
「……行こう」
軽く手を引き、彼は歩き出す。
血と、その臭いを洗い流すにはこの部屋から出て隣のシャワールームに行かなくてはいけない。
彼女は縋る様に零九の手を握ったまま着いて来る。強く握り返す事も出来たが、彼はそれをせず、優しくソッと握る。今の自分達を表す様に、一瞬でも気を緩めるとこの手の様に離れてしまうと言うように。
「置いていかないで……」
ニニは独り言の様に漏らす。手を離すことを恐れているのか、彼が自分の元を去ってしまう事を恐れているのか、彼女にも解らない呟きだった。
しゃっくりの止まらない彼女の目から涙は零れていないが、拭いきれない血の臭いと暗い表情に胸が潰される様な気になる。その痛みを誤魔化す為に零九は彼女を片手で抱き寄せて頭を撫で、頬にキスをする。
「俺が居るから……」
零九は囁き、ニニは頷く。
大丈夫、などとは口に出来なかった。愛している、とも言えない。ずっと側に居る、など口が裂けても言えない。
それらの言葉は最早彼女にとっては重荷になる事を零九は知っている。自分の気持ちとしては何度でも何度でも口にしたかったが、死がはっきりとした形で見えてしまった今は、その存在の大きさにこの愛しさも飲み込まれてしまう。
「……行こう」
軽く手を引き、彼は歩き出す。
血と、その臭いを洗い流すにはこの部屋から出て隣のシャワールームに行かなくてはいけない。
彼女は縋る様に零九の手を握ったまま着いて来る。強く握り返す事も出来たが、彼はそれをせず、優しくソッと握る。今の自分達を表す様に、一瞬でも気を緩めるとこの手の様に離れてしまうと言うように。
「置いていかないで……」
ニニは独り言の様に漏らす。手を離すことを恐れているのか、彼が自分の元を去ってしまう事を恐れているのか、彼女にも解らない呟きだった。
