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温もり

第4章 母

 零九は夢を見ていた。
 雑誌に載っていた、父親の住む南国のお洒落な街を、ファッションモデルが着ている様な服を着て、手を繋いで何をするでもなく、二二と笑いながら歩いている、ささやかな夢。

 零九は夢を見ていた。
 暗い部屋で服を脱いだニニがベッドの上で呆然と天井を見上げ、彼女の上で男が蠢いている、身を引き裂かれるように辛い夢。

 零九は夢を見ていた。
 雑誌で見たレンガ造りの落ち着いた家に、ニニと二人で住んで、穏やかな日々を過ごす現実味の無い夢。

 零九は何度も何度も夢を見た。
 折り重なる合成獣の死体。その中に含まれるLL。慣れてはいても馴染む事も無く、吐き気をもよおす濃い血臭の中、力を失った最愛の妹を抱いて呆然としている近い将来の夢。

 夢の中でどれだけ彼女の名を呼んだのか、零九には解らない。

「ニニ……」
 
 時には穏やかに。

「ニニ!」

 助けられない無力感に涙しながら。

「ニニ」

 用事も無いのに。

「……二、ニ……」

 苦しみを吐き出す様に。


 君に会えて、俺は幸せだった。
 君を愛して、君に愛されて、俺はそれを誇りに思えた。
 ただ、君を愛している。
 君と一緒に過ごしたい。
 君と一緒に過ごしたい。
 君と一緒に生きたい。
 君と一緒に笑いたい。
 喜びを分かちあって、笑いあって、もっと生きたい。

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