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温もり

第4章 母

「ふふっ。夢見がちね?」

 クスクスとラディが、母が笑う。
 声がどこから聞こえるのかは零九にとってはどうでも良い事だった。目に見えるところ、触れられるところに居るのかさえもどうでも良かった。

「どうして……」

 絞り出す様に彼は言う。
 自分がどこに居て、どんな態勢で居るのかもどうでも良かった。

「どうして、俺にこんな感情を教えたんだ?」

 目頭が熱くなり、つぅ、と熱いものが流れる。ただひたすらに胸が苦しかった。

「どうして、ニニと俺を出会わせたんだ? こんな場所で」

 零九は自分でも何を言っているのか解らず、次から次と零れる涙にも戸惑いを感じる。ラディはそれを見ているのか、感じているのか、クスクスと楽しそうに笑っている。

「愛を知って、貴方は喜んでたじゃない。誇りだったんじゃないの?」

 ラディは笑いながら零九の心を弄ぶ。
 己の死と直面し、命乞いをする罪のない兄弟を殺し、涙を零している恋人の涙を拭う力も無くなり、愛を囁く気力も失い、疲れ果てた息子は、彼女にとって最高の玩具だった。

「こんな所に生まれたくなかった」

 零九は声を震わせて、嗚咽を漏らす。
 自分はこんなに弱っていたのだと、初めて気づいた。

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