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温もり

第1章 嗚咽

 『NO.150』と書かれた扉の前に、零九は一度深呼吸をする。彼女には、心の中の汚い物を勘付かれたくなかった。

 少ししっかりしたところで零九はドアノブに手をかける。
 扉を開けると、腰まで伸びた灰色の髪の少女が剣術の型をやっていた。集中してやっているらしく、汗をかいている。

「零九、お帰り」

 彼に気づいて彼女は二コリと微笑む。
 零九も父親に似ていると自覚しているが、彼女は似ていると言うよりは、まるで生き写しだ。細い眉も、通った鼻筋も、薄い唇も、最強・最も美しいと謳われるハンターであるラークにあまりに似ている。
 唯一、彼女が若干つり目な位しか違いがない。

「ただいま」

 彼女の笑みに、自然と零九も頬を緩ませる。
 彼女は型を一通りやりたいらしく、彼が部屋に入って来てもやめようとしない。そんな彼女を見ながら、零九は自分のベットに座り、重い体を横たわらせる。

「どうしたの?」

 すぐに横になった彼に気づき、ニニは型をやめて近寄る。いつもなら型を見て指摘したり、一緒にやったりするのだ。

「疲れたんだ。食事が出来るまで横になりたい」

 疲労に目眩までして来て、踏ん張ろうとしてもその気力まで無くなってしまい、零九は目をトロンとさせて呟く。

「大丈夫?」

「大丈夫だよ」

 ニニに心配はかけまいと零九は少し口角を上げる。一二が亡くなった今、彼女は次死ぬのは自分か零九か、酷く不安になっているのは解っている。

「ニニ」

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