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私と高志の長い一日~とっておきのキスは恐怖の後で~

第2章 色っぽい花魁の次は身も凍る夜泣きそば屋

 私はにわかに親近感が湧いてきて、そのおじいさんに話しかけた。おじいさんは紺色の袢纏のようなキモノを着て、頭に手ぬぐいを被っている。
「おじいさん、この屋台は何のお店ですか?」
 声をかけると、しばらく経って、嗄れた声がかえってきた。
「夜泣き蕎麦だよ」
「夜泣き蕎麦?」
 高志が首をかしげているので、私は説明してあげる。
「江戸時代には、実際にこうして屋台で通行人に蕎麦を食べさせるお店があったのよ。夜遅くまで営業してたから、一杯飲んで家に帰る人が途中で食べたりして、結構な人気だったみたいよ」
「へえー、真美って意外に物知りなんだ」
 高志は純粋に感心しているようだが、その意外にというのだけは余計なんですけど?
「おじいさん、本当に今、食べられるの?」
 私は訊ねてみた。
 でも、おじいさんは答えない。
「ねえ、おじいさん?」
 


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