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私と高志の長い一日~とっておきのキスは恐怖の後で~

第3章 謎の江戸っ娘はいったい誰!?

おつやちゃんに関する話で、私がいちばん心に残ったのは、もっと別の話だった。というのも、災難にあった当日、彼女は許婚者と逢瀬ーつまり今でいうデートだね―中だったらしい。
 おつやちゃんの家は江戸でも評判の呉服太物問屋、つまり布地なんかを売るお店、しかも大店だった。許婚者の相手も同業のそれなりのお店の次男で、親同士が決めた結婚だったけれど、二人はとても仲むつまじかった。
 だけど、デート中の二人はそれぞれの自宅から遠く離れた場所にいて、火事に巻き込まれた。許婚者に手を引かれて夢中で逃げる途中、煙に巻かれてしまい、おつやちゃんはゆく方知れずになったのだ。
 恋人は慌てておつやちゃんを探したものの、結局、見つからずじまいで、後に無残な焼死体となって発見されることになる。
 立ちこめる煙と紅蓮の焔の中を懸命に逃げる最中、許婚者はおつやちゃんの手を放してしまったのだった―。

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