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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第6章 第二話・其の弐

「お従弟同士であらせられたれば、ご幼少の砌からご親交がおありだったのでございますか?」
 これは純粋な好奇心から訊ねたことであった。一人っ子の美空には兄弟姉妹はむろん、いとこといったものを持たない。それゆえに問いかけだったのだが、それは孝俊の心の奥底に潜む何かに触れたようであった。
 孝俊は何かを思い出すような眼になった。
 そなたの申すがごとく、幼い頃は共によく遊んだものだ。それが、いつから、あのようになってしもうたのやら」
 その口調に含まれるものに、ほろ苦い感情がわずかに混じった。
「殿―?」
 美空が気遣わしげに見つめると、孝俊は小さく首を振った。
「あやつと俺との関係は、思っている以上に複雑なものがある」
 美空は眼を見開く。
 あのいかにも飄々とした、少し人を見下したような男と孝俊の間に一体、何があったのだろうか。俄に不安を憶える。
 孝俊の秀麗な面に苦渋の色が滲んだ。
「俺の父には六人の弟と五人の妹がいた。むろん、正式な室との間に儲けた子ばかりではない。長男である父と三男、次女を生んだのは正室だが、後は皆、脇腹だ。俊昭の父―俺には叔父に当たる俊実どのも側室腹だった。さりながら、我が父は弟妹に対して分け隔てなく接していたようで、兄弟姉妹仲も至極睦まじかったという。父が殊に仲が良かったのがすぐ下、つまり次男の俊実どのであった。その関係で、俊実どのの嫡男俊昭とも物心ついた時分から真の兄弟のようにして育った。俊昭はよくこの上屋敷に遊びにきたし、俺も叔父上の屋敷を訪ねたものだ」
孝俊の眼は何かを懐かしむように遠い。
 恐らくは、年下の従弟と共に遊んだという子ども時代を思い出しているに相違ない。
「以前にも話したとは思うが、この屋敷において俺は日陰者、厄介者でしかなかったからな。義母上の冷たい眼がいやで、俺はしょっ中屋敷を抜けては叔父上の屋敷を訪れ、厄介になった。俺にとっては自分の家であるこの上屋敷よりは叔父上の屋敷の方がよほど愉しかった」
 そこで、孝俊は小さな吐息を吐いた。

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