
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第8章 第二話・其の四
吐き捨てるように言った俊昭に、美空は、たまらず言った。
「俊昭さま、孝俊さまは今でもあなたさまを実の弟君のように思うておいでにございます。叶うことならば、あなたさまと今一度、手を携えたいと、長らくお二人の間にわだかまっていた誤解を解きたいと願うておいでです」
「何が誤解だ、あやつは最初は尾張徳川家を捨てるつもりだった。さりながら、寸でのところで欲が出て、藩主の座欲しさに舞い戻ってきたのよ。そのお陰で、私もうちの親父もどれだけ煮え湯を飲まされたか」
俊昭が怒りを込めた口調で言う。
美空は烈しく首を振った。
「それは違います」
「何がどう違うというのだ」
美空は必死な面持ちで続けた。
「孝俊さまのお父上さまが俊昭さまのお父上さまにどのように仰せになられたのかは知りませぬ。ただ、孝俊さまは、このように仰せでした。必ず帰ってくると先代さまにお約束したと」
「そんなのは所詮、あの男の口先だけの方便だろう。家を捨てるだなぞとたいそうなことを申しながら、とどのところ、返り場所を確保しておきたいと考えていたのだろう。あやつの考えそうな、甘ったれた小狡いやり方だ」
駄目だ、長年の憎しみに凝り固まった俊昭の心は容易には溶けそうにない。
「お願いにございます。どうか、今一度、孝俊さまとお話してみて下さいませ。孝俊さまは、殿は、俊昭さまと仲直りしたいと思し召されておいでなのです。そのお心をお汲み取り下さいませ」
懸命に訴える美空を、俊昭は何かに耐えるような眼で見つめた。
「とんだお笑い草だな。あのような薄情で良い加減な男をそこまで庇い立てするとは」
尖った言葉とは裏腹に、俊昭の表情はとても切なげに見えた。
束の間の静寂が辺りに満ちる。
そのときのことだ。
「俊昭ッ、貴様、美空に何をしたッ」
わずかな沈黙を突き破るように怒声が響いた。
「ホウ、いよいよ色男のお出ましか」
俊昭が口笛を鳴らす。
「俊昭さま、孝俊さまは今でもあなたさまを実の弟君のように思うておいでにございます。叶うことならば、あなたさまと今一度、手を携えたいと、長らくお二人の間にわだかまっていた誤解を解きたいと願うておいでです」
「何が誤解だ、あやつは最初は尾張徳川家を捨てるつもりだった。さりながら、寸でのところで欲が出て、藩主の座欲しさに舞い戻ってきたのよ。そのお陰で、私もうちの親父もどれだけ煮え湯を飲まされたか」
俊昭が怒りを込めた口調で言う。
美空は烈しく首を振った。
「それは違います」
「何がどう違うというのだ」
美空は必死な面持ちで続けた。
「孝俊さまのお父上さまが俊昭さまのお父上さまにどのように仰せになられたのかは知りませぬ。ただ、孝俊さまは、このように仰せでした。必ず帰ってくると先代さまにお約束したと」
「そんなのは所詮、あの男の口先だけの方便だろう。家を捨てるだなぞとたいそうなことを申しながら、とどのところ、返り場所を確保しておきたいと考えていたのだろう。あやつの考えそうな、甘ったれた小狡いやり方だ」
駄目だ、長年の憎しみに凝り固まった俊昭の心は容易には溶けそうにない。
「お願いにございます。どうか、今一度、孝俊さまとお話してみて下さいませ。孝俊さまは、殿は、俊昭さまと仲直りしたいと思し召されておいでなのです。そのお心をお汲み取り下さいませ」
懸命に訴える美空を、俊昭は何かに耐えるような眼で見つめた。
「とんだお笑い草だな。あのような薄情で良い加減な男をそこまで庇い立てするとは」
尖った言葉とは裏腹に、俊昭の表情はとても切なげに見えた。
束の間の静寂が辺りに満ちる。
そのときのことだ。
「俊昭ッ、貴様、美空に何をしたッ」
わずかな沈黙を突き破るように怒声が響いた。
「ホウ、いよいよ色男のお出ましか」
俊昭が口笛を鳴らす。
