
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第10章 第三話・其の弐
美空が藁靴を脱ぎ、板敷きの間に上がる。雪の中をずっと歩いてきた誠志郎は、被っている菅笠や蓑が雪まみれであった。全誠志郎は全身に薄く積もった雪を外で落とした後、美空の後を追うように入ってきた。
だだっ広い板敷きの部屋は六畳ほどの広さがあり、中央には四角に切り取った囲炉裏があり、赤々と火が燃えていた。焔を見ていると、何故かホッとする。細氷は確かにこの世のものとは思えないほど美しいけれど、どこか魂を奪うような妖しさを秘めている。じっと眺めていると、昔、父がよく話してくれたお伽噺の雪女に魅入られ、どこか遠い国に連れてゆかれるような恐怖をふと憶えることがあった。
細氷の凄絶なまでの美しさは、どこか男を魅了し、その心を虜にするという雪女郎(雪女)に通じるものがあった。美しいけれど、じっと眺めていれば、その身だけでなく心まで凍らせ、黄泉の国へと連れ去ってしまうという伝説の妖怪だ。
それにひきかえ、焔の色は人の心を温める、現実感のある色だ。遠くに運ばれそうになった美空の意識をほとりと温め、この現世(うつしよ)に引き止めてくれる。
「今日もまた幾つか持ってきたんだが、大丈夫かな、引き受けて貰えるだろうか」
誠志郎の声で、美空は突如として現に引き戻された。
眼裏では、まだ氷のかけらが砕けたギヤマンのようにキラキラと光り輝いている。
「は、はい?」
美空は上の空だった自分を恥じながら、誠志郎に詫びた。
「済みません。私ったら、つい考え事をしちまって」
「いや、それは良いんだ。しかし、私はやはり、心配でならないよ。こんな小さな村にたった一人で暮らしている美空ちゃんのことがいつも心にかかってね。夏や秋はともかく、この時季にはこのとおり、この辺りは雪に閉ざされてしまう。女一人の暮らしでは物騒だし、何より不便だろう。どうだい、ここらで私と一緒に江戸に戻る気はないか?」
誠志郎は穏やかな声音で誘う。
美空にとっては、有り難い申し出には違いなかったけれど、今更、のこのこと江戸に戻る気は毛頭なかった。
だだっ広い板敷きの部屋は六畳ほどの広さがあり、中央には四角に切り取った囲炉裏があり、赤々と火が燃えていた。焔を見ていると、何故かホッとする。細氷は確かにこの世のものとは思えないほど美しいけれど、どこか魂を奪うような妖しさを秘めている。じっと眺めていると、昔、父がよく話してくれたお伽噺の雪女に魅入られ、どこか遠い国に連れてゆかれるような恐怖をふと憶えることがあった。
細氷の凄絶なまでの美しさは、どこか男を魅了し、その心を虜にするという雪女郎(雪女)に通じるものがあった。美しいけれど、じっと眺めていれば、その身だけでなく心まで凍らせ、黄泉の国へと連れ去ってしまうという伝説の妖怪だ。
それにひきかえ、焔の色は人の心を温める、現実感のある色だ。遠くに運ばれそうになった美空の意識をほとりと温め、この現世(うつしよ)に引き止めてくれる。
「今日もまた幾つか持ってきたんだが、大丈夫かな、引き受けて貰えるだろうか」
誠志郎の声で、美空は突如として現に引き戻された。
眼裏では、まだ氷のかけらが砕けたギヤマンのようにキラキラと光り輝いている。
「は、はい?」
美空は上の空だった自分を恥じながら、誠志郎に詫びた。
「済みません。私ったら、つい考え事をしちまって」
「いや、それは良いんだ。しかし、私はやはり、心配でならないよ。こんな小さな村にたった一人で暮らしている美空ちゃんのことがいつも心にかかってね。夏や秋はともかく、この時季にはこのとおり、この辺りは雪に閉ざされてしまう。女一人の暮らしでは物騒だし、何より不便だろう。どうだい、ここらで私と一緒に江戸に戻る気はないか?」
誠志郎は穏やかな声音で誘う。
美空にとっては、有り難い申し出には違いなかったけれど、今更、のこのこと江戸に戻る気は毛頭なかった。
