
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第10章 第三話・其の弐
「まるで、自然が化粧師になって、この池を綺麗にしてあげたみたい」
美空がひとり言のように言うと、誠志郎が笑った。
「美空ちゃんは実に面白いことを言う。なるほど、自然が化粧師か」
二人は並んで、しばし螢ヶ池に降りしきる雪に眺め入る。
音もなく降り積もる雪、また、雪。
「私にとって、今日という日は忘れられない日になりそうだ」
誠志郎が感に堪えたように言い、美空を見つめた。
「美空ちゃん、今度、私がこの村に来たときは」
と、何を思ったか、誠志郎は唐突に言葉を途切れさせた。
「―誠志郎さん?」
美空が小首を傾げる。
が、誠志郎はいつもの優しい微笑みを浮かべ、首を振った。
「いや、良いんだ。この話は、私が今度ここに来たときで良い。そのときにちゃんと話すよ」
そして、美空を気遣うように言う。
「いけない、すっかり遅くなっちまった。美空ちゃん、もう一度、美空ちゃんを家まで送っていってあげたいけど、何しろこの時間だから、それもできない。大丈夫かな、一人で帰れるかい?」
「私なら大丈夫、それよりも誠志郎さんこそ、引き止めてしまって、ごめんなさい。こんなに暗くなってしまって、道中が大変かもしれませんね」
それでも、泊まってゆけばと言えない我が身が恨めしかった。むろん、たとえ泊まったからといっても、誠志郎が美空に対して無体なふるまいをするとは思えない。だが、そのときの美空には、まだ誠志郎に泊まっていってと言うだけの勇気はなかった―。
後々、そのことをも美空は何度も後悔することになるのだ。
「じゃ、今度こそ、また」
誠志郎は美空を見て微笑むと、軽く頭を下げ、背を向けた。振り分け荷物を持ったその姿が雪の中に吸い込まれてゆく。
美空は茫然と雪の中に立ち尽くす。
誠志郎は別れ際、一体、何を言いたかったのだろう。妙なことが気になった。
美空がひとり言のように言うと、誠志郎が笑った。
「美空ちゃんは実に面白いことを言う。なるほど、自然が化粧師か」
二人は並んで、しばし螢ヶ池に降りしきる雪に眺め入る。
音もなく降り積もる雪、また、雪。
「私にとって、今日という日は忘れられない日になりそうだ」
誠志郎が感に堪えたように言い、美空を見つめた。
「美空ちゃん、今度、私がこの村に来たときは」
と、何を思ったか、誠志郎は唐突に言葉を途切れさせた。
「―誠志郎さん?」
美空が小首を傾げる。
が、誠志郎はいつもの優しい微笑みを浮かべ、首を振った。
「いや、良いんだ。この話は、私が今度ここに来たときで良い。そのときにちゃんと話すよ」
そして、美空を気遣うように言う。
「いけない、すっかり遅くなっちまった。美空ちゃん、もう一度、美空ちゃんを家まで送っていってあげたいけど、何しろこの時間だから、それもできない。大丈夫かな、一人で帰れるかい?」
「私なら大丈夫、それよりも誠志郎さんこそ、引き止めてしまって、ごめんなさい。こんなに暗くなってしまって、道中が大変かもしれませんね」
それでも、泊まってゆけばと言えない我が身が恨めしかった。むろん、たとえ泊まったからといっても、誠志郎が美空に対して無体なふるまいをするとは思えない。だが、そのときの美空には、まだ誠志郎に泊まっていってと言うだけの勇気はなかった―。
後々、そのことをも美空は何度も後悔することになるのだ。
「じゃ、今度こそ、また」
誠志郎は美空を見て微笑むと、軽く頭を下げ、背を向けた。振り分け荷物を持ったその姿が雪の中に吸い込まれてゆく。
美空は茫然と雪の中に立ち尽くす。
誠志郎は別れ際、一体、何を言いたかったのだろう。妙なことが気になった。
