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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第10章 第三話・其の弐

 その言葉に、美空は烈しくかぶりを振った。
「私には、もう何もお話しすることはございません。どうか、このまま何もおっしゃらずにお帰り下さいまし」
 孝俊の貌が一瞬、歪んだ。
 何かに耐えるような表情をしたかと思うと、次の瞬間、氷のかけらを含んだようなまなざしで美空を冷ややかに見つめた。
 その口許がほんのわずかに綻ぶ。見ようによっては笑っているようにも見えたけれど、そのおよそ生気を感じさせぬ氷のような微笑は、この世のものとは思えぬほど美しく、見る者の魂まで凍らせてしまうほど冷たかった。
 初めて見る酷薄な顔に、美空は我知らず身体を強ばらせた。唇が戦慄く。孝俊のこんな表情を、声を、美空は見たことも聞いたこともなかった。そして、孝俊に対して、身体が震えるような恐怖を感じたことも。
 美空は怯えを宿した瞳で、見知らぬ男のようにしか見えない良人を見つめた。
 おずおずと見上げた孝俊の口からは、極めて抑揚のない言葉が洩れた。
「そなたに話がなくとも、生憎、俺は山ほどもあるのだ。それとも、この場から有無を言わさず力ずく連れて帰られたいのか? そなたがどうしても厭だと申すのであれば、俺はそうしても一向に構わん。―さあ、案内して貰おうか」
 駄目押しのように言われ、美空はうなだれた。

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