
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第10章 第三話・其の弐
むろん、尾張藩にもそういった組織は存在するはずだ。美空は孝俊から隠密について聞かされたことはなかったけれど、仮にも御三家筆頭ともなれば、かなりの規模の隠密部隊、しかも精鋭揃いの組織を内包していたはずである。
その隠密の手にかかれば、美空がたとえどのように巧妙に姿を隠したつもりでも、見つけ出すのは容易いことだ。誠志郎の存在もまた、そういった忍びの手の者によって明るみになり、孝俊に報告されたのだろう。
めまぐるしく思考を回転させている美空に、孝俊の乾いた声が降ってきた。
「申しておくが、嘘偽りを申しても無駄なことだぞ」
誠志郎は、まずは牽制してから、口の端をつり上げ、冷たく笑む。
美空は小さく息を吸い込んだ。
もとより、嘘など述べるつもりはない。何より、嘘偽り云々といっても、美空には自分の取った一連の行動について何ら恥じるとこはない。今更、孝俊に弁明すべきことも何一つないのだ。
美空はきちんと膝を揃えて座り、真っすぐに孝俊を見上げた。
「俺が報告を受けたところによれば、この家に浪速屋なる商人がしばしば出入りしているそうな。更に、その浪速屋とそなたは到底、他人とは思えぬ親密な間柄であるとも聞くが?」
「先刻も申し上げましたように、私は何も言うべき言葉はございません」
毅然として言い切った美空の態度に、孝俊が気圧されるのが判った。が、すぐに体勢を立て直し、冷たい微笑の仮面の下に愕きの素顔を隠す。
「ホウ、ならば、はきと言おう。到底、他人とは思えぬ親密な間柄、そう申すのは、その浪速屋とそなたの間が既にただならぬものであるということではないのか。つまり、そなたは、俺という良人のある身で、浪速屋と不貞を働いていたということになる」
薄い刃を突きつけるようなきわどい言葉を、孝俊は優雅に、笑みさえ含めて口にした。
その隠密の手にかかれば、美空がたとえどのように巧妙に姿を隠したつもりでも、見つけ出すのは容易いことだ。誠志郎の存在もまた、そういった忍びの手の者によって明るみになり、孝俊に報告されたのだろう。
めまぐるしく思考を回転させている美空に、孝俊の乾いた声が降ってきた。
「申しておくが、嘘偽りを申しても無駄なことだぞ」
誠志郎は、まずは牽制してから、口の端をつり上げ、冷たく笑む。
美空は小さく息を吸い込んだ。
もとより、嘘など述べるつもりはない。何より、嘘偽り云々といっても、美空には自分の取った一連の行動について何ら恥じるとこはない。今更、孝俊に弁明すべきことも何一つないのだ。
美空はきちんと膝を揃えて座り、真っすぐに孝俊を見上げた。
「俺が報告を受けたところによれば、この家に浪速屋なる商人がしばしば出入りしているそうな。更に、その浪速屋とそなたは到底、他人とは思えぬ親密な間柄であるとも聞くが?」
「先刻も申し上げましたように、私は何も言うべき言葉はございません」
毅然として言い切った美空の態度に、孝俊が気圧されるのが判った。が、すぐに体勢を立て直し、冷たい微笑の仮面の下に愕きの素顔を隠す。
「ホウ、ならば、はきと言おう。到底、他人とは思えぬ親密な間柄、そう申すのは、その浪速屋とそなたの間が既にただならぬものであるということではないのか。つまり、そなたは、俺という良人のある身で、浪速屋と不貞を働いていたということになる」
薄い刃を突きつけるようなきわどい言葉を、孝俊は優雅に、笑みさえ含めて口にした。
