
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第10章 第三話・其の弐
「お待ち下さいませ」
美空は、たまりかねて叫んだ。
「私は、けして、けして天にも自らにも恥じるようなことは致しておりません。浪速屋さんは私の父の、亡くなった弥助の友人でした。父が亡くなった後も、私を何くれとなく助けて下さり、私も随分と心強い想いが致しました」
ありのままの事実を述べると、孝俊は何かを思い出すような眼になった。
「そなたの父の友人―、であれば、随分と昔からの知己ということになる。そのような昔からの知り合いであったのか。その浪速屋からそなたは一体、いかようなる援助を受けていたと申すのだ?」
何故、このように逐一、科人が吟味を受けるような詰問口調で問いつめられねばならぬのか。美空は内心、屈辱と憤りを憶えながらも、慎重に言葉を選んだ。
「あなたさまも既にご存じかと思いますが、浪速屋さんは呉服問屋です。私は仕立物の内職をしておりましたゆえ、内職仕事を紹介して頂いておりました」
まだ小間物屋の孝太郎と名乗っていた孝俊と結婚した当時、美空は徳平店で仕立物の内職をしていた。そのことを、孝俊は誰よりよく知っている。ゆえに、この話は信じて貰えるはずだという確信があった。
「俺と所帯を持った時、既にそなたと浪速屋の拘わりは絶えていたはずだ。俺は、そなたが浪速屋から仕事を回して貰っていたことを、今初めて知った。実際、今回のことで、そなたのゆく方や身辺を庭の者に調べさせている中に、初めて浪速屋を知ったのだ。何故、あの頃、俺にそのことを黙っていた?」
その問いに、美空は言葉を失った。
新婚当時、何ゆえ、浪速屋誠志郎の存在を孝俊に告げなかったか。理由は幾つかある。まず、誠志郎からは仕事を紹介して貰うだけの間柄で、特にわざわざ誠志郎の存在を良人となった孝俊に告げる必要はなかったこと。
更に、誠志郎とは何もなかったとはいえ、一度は求婚されたという経緯があった。ゆえに、新婚まもない良人に、かつて求婚された男である誠志郎の名を告げることにはばかりがあった。
美空は、たまりかねて叫んだ。
「私は、けして、けして天にも自らにも恥じるようなことは致しておりません。浪速屋さんは私の父の、亡くなった弥助の友人でした。父が亡くなった後も、私を何くれとなく助けて下さり、私も随分と心強い想いが致しました」
ありのままの事実を述べると、孝俊は何かを思い出すような眼になった。
「そなたの父の友人―、であれば、随分と昔からの知己ということになる。そのような昔からの知り合いであったのか。その浪速屋からそなたは一体、いかようなる援助を受けていたと申すのだ?」
何故、このように逐一、科人が吟味を受けるような詰問口調で問いつめられねばならぬのか。美空は内心、屈辱と憤りを憶えながらも、慎重に言葉を選んだ。
「あなたさまも既にご存じかと思いますが、浪速屋さんは呉服問屋です。私は仕立物の内職をしておりましたゆえ、内職仕事を紹介して頂いておりました」
まだ小間物屋の孝太郎と名乗っていた孝俊と結婚した当時、美空は徳平店で仕立物の内職をしていた。そのことを、孝俊は誰よりよく知っている。ゆえに、この話は信じて貰えるはずだという確信があった。
「俺と所帯を持った時、既にそなたと浪速屋の拘わりは絶えていたはずだ。俺は、そなたが浪速屋から仕事を回して貰っていたことを、今初めて知った。実際、今回のことで、そなたのゆく方や身辺を庭の者に調べさせている中に、初めて浪速屋を知ったのだ。何故、あの頃、俺にそのことを黙っていた?」
その問いに、美空は言葉を失った。
新婚当時、何ゆえ、浪速屋誠志郎の存在を孝俊に告げなかったか。理由は幾つかある。まず、誠志郎からは仕事を紹介して貰うだけの間柄で、特にわざわざ誠志郎の存在を良人となった孝俊に告げる必要はなかったこと。
更に、誠志郎とは何もなかったとはいえ、一度は求婚されたという経緯があった。ゆえに、新婚まもない良人に、かつて求婚された男である誠志郎の名を告げることにはばかりがあった。
