
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第10章 第三話・其の弐
かつて付き合い始めたばかりの頃、孝俊にはすべて身上について話したし、仕立物の内職をしていることも打ち明けていたが、誠志郎との拘わり、殊に求婚されたことについては話していなかった。
誠志郎との間に格別何もあったわけでもなく、何より、美空自身は誠志郎のことを殊更男として意識したこともなく、特別な感情を抱いていたわけでもなかった。
それゆえ、誠志郎との拘わりを孝俊に告げたとしても何の支障もなかったのだ。が、やはり、事が事だけに話しそびれてしまったのだ。そのことがかえって、今も裏目に出てしまったようだ。
迂闊だった。やましいことがなければ、所帯を持つ前に、きちんと孝俊にその存在や誠志郎との拘わりを話すべきであったのだ。
その複雑な心の内、誠志郎との間にあった経緯をどのように告げたら良いのか
美空は言葉に窮し、うなだれた。
それに、昔はともかく、現在、この瞬間、自らの胸の奥底を覗けば、誠志郎への想いが明らかに変化していることは確かだ。
自分の心の底には、誠志郎へのほのかな想いがある。それが世に言う男女の感情なのかどうかはいまだに判らない。かつて孝俊と出逢ったばかりの頃、感じた切ないような心の震えや苦しいほどのときめきこそなかったけれど、誠志郎に早く逢いたいという気持ち、誠志郎に次に逢うまでの時間が途方もなく長く感じられること―、それらはやはり、我が身が誠志郎に惹かれている証ではないのか。
まだ好いた惚れたとか、烈しい恋情には程遠いけれど、美空は誠志郎を男としてはっきり意識し、その上でほのかな好意を寄せている。それは、確かにある意味でいえば、良人たる孝俊への大きな裏切りかもしれない。
まさに、誠志郎への想いを改めて、しかと意識した瞬間だった。その想いを自覚しただけに、逆に美空は何も言えなくなってしまった。生来、嘘はつけない性分なのだ。
口をつぐむ美空を冷めた眼で眺め、孝俊は言った。
「黙っているということは、申し開きはできぬ―それがそなたの応えと受け取っても良いのだな」
誠志郎との間に格別何もあったわけでもなく、何より、美空自身は誠志郎のことを殊更男として意識したこともなく、特別な感情を抱いていたわけでもなかった。
それゆえ、誠志郎との拘わりを孝俊に告げたとしても何の支障もなかったのだ。が、やはり、事が事だけに話しそびれてしまったのだ。そのことがかえって、今も裏目に出てしまったようだ。
迂闊だった。やましいことがなければ、所帯を持つ前に、きちんと孝俊にその存在や誠志郎との拘わりを話すべきであったのだ。
その複雑な心の内、誠志郎との間にあった経緯をどのように告げたら良いのか
美空は言葉に窮し、うなだれた。
それに、昔はともかく、現在、この瞬間、自らの胸の奥底を覗けば、誠志郎への想いが明らかに変化していることは確かだ。
自分の心の底には、誠志郎へのほのかな想いがある。それが世に言う男女の感情なのかどうかはいまだに判らない。かつて孝俊と出逢ったばかりの頃、感じた切ないような心の震えや苦しいほどのときめきこそなかったけれど、誠志郎に早く逢いたいという気持ち、誠志郎に次に逢うまでの時間が途方もなく長く感じられること―、それらはやはり、我が身が誠志郎に惹かれている証ではないのか。
まだ好いた惚れたとか、烈しい恋情には程遠いけれど、美空は誠志郎を男としてはっきり意識し、その上でほのかな好意を寄せている。それは、確かにある意味でいえば、良人たる孝俊への大きな裏切りかもしれない。
まさに、誠志郎への想いを改めて、しかと意識した瞬間だった。その想いを自覚しただけに、逆に美空は何も言えなくなってしまった。生来、嘘はつけない性分なのだ。
口をつぐむ美空を冷めた眼で眺め、孝俊は言った。
「黙っているということは、申し開きはできぬ―それがそなたの応えと受け取っても良いのだな」
