
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第11章 第三話〝花笑み~はなえみ~〟・其の参
「浪速屋は昨年の十二月、旅の途中に吹雪に遭い、あえなく落命したとのことにございます」
智島が一語、一語、噛んで含めるようにゆっくりと話す。
「馬鹿な、誠志郎さまが亡くなるなぞ、そのようなことあるはずもない」
美空は智島の言葉を真っ向から否定したけれど、智島が嘘を言うような者ではないことは誰よりよく知っている。
それに、何より智島がそんなことで嘘をつく必要がどこにあるだろう。
短い静寂が流れた。
そのわずかな沈黙は、美空が現実を容認できるまでに必要な時間でもあった。
「智島、もう一度、言ってはくれぬか」
震えながら、それでも気丈に問い返す。
そんな女主人を智島は労しげに見ながら、もう一度繰り返した。
「浪速屋は昨年十二月、吹雪に遭い、落命致したとのことにござります」
「誠志郎さまが落命―」
美空は智島の科白をなぞると、動揺を抑えて訊ねた。
「そなたは先ほど、旅の途中と申したな。それは、螢ヶ池村から江戸に戻る道中でのことか」
「はい、螢ヶ池村からさほど離れてはおらぬ場所、主街道に至る前にての不慮の事故、と聞き及んでおります。折からの猛吹雪にて、亡骸が見つかったのは亡くなったと思われる日から更に数日を経た後のこととか。雪解け後、発見された骸は引き取りに来た浪速屋の奉公人たちの手によって江戸に持ち帰られ、手厚く葬られたそうにござります」
その言葉は、美空に予想以上の衝撃を与えた。
「何と、螢ヶ池村の近くでの事故と―」
美空は自分の顔から血の気がスウと引いてゆくのが判った。
では、誠志郎は二十日前、自分と辻堂の前で別れてからすぐ、事故に遭ったというのか。
あの後、美空は誠志郎の安否を案じてはいた。視界もろくにきかぬ猛吹雪の中を帰っていった誠志郎が果たして無事に江戸に辿り着いたかどうか、ずっと気にしていたのだ。
智島が一語、一語、噛んで含めるようにゆっくりと話す。
「馬鹿な、誠志郎さまが亡くなるなぞ、そのようなことあるはずもない」
美空は智島の言葉を真っ向から否定したけれど、智島が嘘を言うような者ではないことは誰よりよく知っている。
それに、何より智島がそんなことで嘘をつく必要がどこにあるだろう。
短い静寂が流れた。
そのわずかな沈黙は、美空が現実を容認できるまでに必要な時間でもあった。
「智島、もう一度、言ってはくれぬか」
震えながら、それでも気丈に問い返す。
そんな女主人を智島は労しげに見ながら、もう一度繰り返した。
「浪速屋は昨年十二月、吹雪に遭い、落命致したとのことにござります」
「誠志郎さまが落命―」
美空は智島の科白をなぞると、動揺を抑えて訊ねた。
「そなたは先ほど、旅の途中と申したな。それは、螢ヶ池村から江戸に戻る道中でのことか」
「はい、螢ヶ池村からさほど離れてはおらぬ場所、主街道に至る前にての不慮の事故、と聞き及んでおります。折からの猛吹雪にて、亡骸が見つかったのは亡くなったと思われる日から更に数日を経た後のこととか。雪解け後、発見された骸は引き取りに来た浪速屋の奉公人たちの手によって江戸に持ち帰られ、手厚く葬られたそうにござります」
その言葉は、美空に予想以上の衝撃を与えた。
「何と、螢ヶ池村の近くでの事故と―」
美空は自分の顔から血の気がスウと引いてゆくのが判った。
では、誠志郎は二十日前、自分と辻堂の前で別れてからすぐ、事故に遭ったというのか。
あの後、美空は誠志郎の安否を案じてはいた。視界もろくにきかぬ猛吹雪の中を帰っていった誠志郎が果たして無事に江戸に辿り着いたかどうか、ずっと気にしていたのだ。
