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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第11章 第三話〝花笑み~はなえみ~〟・其の参

 美空の脳裡に、凪いだ春の海のような笑顔がありありと甦る。二十日前に最後に見た誠志郎の笑顔は、あまりにも克明に記憶に刻み込まれていた。
 空中を舞うように光り輝いていた細氷、蓮の枯れあとを美しく飾っていた純白の雪の花、誠志郎と二人で眺めた景色のすべてが今もなお色あせることなく想い出の中で息づいている。
―誠志郎さん。
 美空はその場にくずおれ、打ち伏した。
 どんなに我が身を責めても、誠志郎は二度と帰らない。あの笑顔を取り戻すことはできない。
 涙が堰を切ったように溢れ、溢れ出した涙は畳に落ち染みを作った。
 外では白梅が咲いている、一月半ばの出来事であった。

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