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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第11章 第三話〝花笑み~はなえみ~〟・其の参

「誠志郎さんッ」
 恐慌状態に陥った美空の口許を分厚い手のひらが覆う。口を塞がれ、美空は呼吸ができなくなった。
「ウ―」
 声にならぬ声を洩らし、孝俊を見上げる美空の眼には烈しい恐怖が浮かんでいた。
「俺以外の男の名など呼んではならぬと申したであろうが」
 耳許で囁いた声は熱く、粘り気を帯びている。
「そなたが愛しうてたまらぬ。頼む、美空、俺だけを見てくれ。他の男のことなど考えるな」
 閨に侍る際、美空は長い髪を下ろし、横で一つに束ねている。烈しく抗ったため、その髪が乱れていた。孝俊は美空の乱れた髪をそっと直し、指でひと房掬う。掬い取った美空の髪に唇を押し当てた。
「美空、愛している」
 美空の黒髪に押し当てられた孝俊の唇から、吐息のようなかすかな呟きが洩れた。
 口を塞がれた美空は、苦悶の表情を浮かべている。思う存分呼吸をしたくて首を振っても、孝俊の手は離れようとはしない。
 これが、あの穏やかな孝俊と同じ男だとは到底信じられない。
―殿は、どうして私にここまで酷いことをするのだろう。
 そう思うと、美空の眼に涙が滲む。

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