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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第11章 第三話〝花笑み~はなえみ~〟・其の参

 恍惚とした表情を浮かべていた孝俊がハッと美空を見た。
「す、済まぬ」
 孝俊は我に返ったように呟き、美空の顔を真上から覗き込んだ。
 荒い呼吸を繰り返している美空を見、流石に気遣わしげに言う。
「大事ないか? 苦しかったであろう」
 その時。
 美空が泣きながら身を起こした。
「いやあ―、いやだ」
 美空が愛した孝俊は、こんな男ではなかった。こんな卑劣なやり方で美空を思いどおりにしようとするような男ではなかったはずだ。
 違う、自分が惚れたのは、この男ではない。
 そう思った刹那、美空の中で我慢できないほどの拒絶反応が起きたのだ。
「こいつめ」
 孝俊が逃げようとした美空の脚を咄嗟に掴む。その拍子に、美空の身体は前方に傾ぎ、大きくよろめいた。派手な音を立てて転んだ美空の身体を、今度こそ孝俊が羽交い締めにする。
 転んだ拍子に、身体の至るところをしたたか打つ。痛みに思わず小さく呻き、うっすらと眼に涙を滲ませた。
 乱暴に褥に転がされ、両手を持ち上げた格好で易々と縫い止められた。
「俺のことしか考えられなくしてやる」
 その氷のごとく冴えたまなざしは、真っすぐ美空を睨みつけていた。
 深く愛しているがゆえに、よりいっそう憎しみも烈しく燃え上がる。その身を灼き焦がすほどの愛しさの裏返しでもあった。
「いっそのこと、そなたをこの手で―」
 孝俊の手が美空の細いうなじにかかる。
 美空は涙に曇った眼で男を見つめる。
 孝俊をここまで、狂気の淵まで追いつめたのは、他ならぬ自分だ。ならば、孝俊の手によって、こうして最後の瞬間(とき)を迎えるのも良いだろう。
 何より、これ以上、夜が来る度、孝俊に延々と責め苛まれるのは厭だった。

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