
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第2章 其の弐
だが、美空は小さく首を振る。
「いいえ、やはり、そんな高価な物をただで頂くわけにはいきません」
「だから、これは、そんな高価なものでは―」
言いかける男に、美空は頑として首を振り続けた。
「今日は幸いにも持ち合わせがあります。これだけあれば、そちらの櫛が頂けるでしょうか」
懐から取り出した巾着を開こうとする美空を見、男が声を立てて笑った。
「全っく、見かけによらず強情な女(ひと)だな、あなたは」
男の顔に悪戯っ子のような表情が浮かぶ。
「どうしても代金を支払おうというのなら、その代わりに私の願いを聞き入れてはくれないだろうか」
美空は突然の男の申し出に、何事かと眼を見開く。警戒心さえ滲ませるその可愛らしい面を見ながら、男が愉快そうに言った。
「また、逢ってくれるという約束と引きかえに、その櫛を差し上げるというのはどうだろう」
思いがけぬなりゆきだった。男が口角を笑みの形に引き上げる。
「先ほど、あなたは私のことをずっと考えていたと言った。あの言葉が真実なら、もう一度逢ってくれたとしても、あなたにとってはそれほど不本意なことではないのではないかな?」
それまでの穏やかな声音、やや控えめな口調とは打って変わった、自信に満ちた堂々とした態度に、美空は小さな吐息を一つつく。
が、憎らしいことに、この男のこんな押しの強そうなところ、いささか自信過剰に思える面も少しも嫌みには映らない。それは、とりもなおさず、美空がこの男に惹かれているからだ。
この男は美空の心を知っていて、わざとこんな強気な物言いをしている。
「―判りました。それでは、その条件でその櫛を頂きましょう」
ほいほいと男の提示した条件に乗るのも癪なので、わざと無表情を装う。
唇を固く引き結んで言う美空をちらりと見、男は、ぼんのくぼに手をやった。
「ひとめ見たときは大人しい娘かと思ったのに、こいつはとんだ見込み違いかな、でも、怒った顔もまた、可愛いな」
その何げない科白に、美空の白い頬がうっすらと染まる。
男がやっと我に返ったような顔で、頭上を振り仰いだ。
「いいえ、やはり、そんな高価な物をただで頂くわけにはいきません」
「だから、これは、そんな高価なものでは―」
言いかける男に、美空は頑として首を振り続けた。
「今日は幸いにも持ち合わせがあります。これだけあれば、そちらの櫛が頂けるでしょうか」
懐から取り出した巾着を開こうとする美空を見、男が声を立てて笑った。
「全っく、見かけによらず強情な女(ひと)だな、あなたは」
男の顔に悪戯っ子のような表情が浮かぶ。
「どうしても代金を支払おうというのなら、その代わりに私の願いを聞き入れてはくれないだろうか」
美空は突然の男の申し出に、何事かと眼を見開く。警戒心さえ滲ませるその可愛らしい面を見ながら、男が愉快そうに言った。
「また、逢ってくれるという約束と引きかえに、その櫛を差し上げるというのはどうだろう」
思いがけぬなりゆきだった。男が口角を笑みの形に引き上げる。
「先ほど、あなたは私のことをずっと考えていたと言った。あの言葉が真実なら、もう一度逢ってくれたとしても、あなたにとってはそれほど不本意なことではないのではないかな?」
それまでの穏やかな声音、やや控えめな口調とは打って変わった、自信に満ちた堂々とした態度に、美空は小さな吐息を一つつく。
が、憎らしいことに、この男のこんな押しの強そうなところ、いささか自信過剰に思える面も少しも嫌みには映らない。それは、とりもなおさず、美空がこの男に惹かれているからだ。
この男は美空の心を知っていて、わざとこんな強気な物言いをしている。
「―判りました。それでは、その条件でその櫛を頂きましょう」
ほいほいと男の提示した条件に乗るのも癪なので、わざと無表情を装う。
唇を固く引き結んで言う美空をちらりと見、男は、ぼんのくぼに手をやった。
「ひとめ見たときは大人しい娘かと思ったのに、こいつはとんだ見込み違いかな、でも、怒った顔もまた、可愛いな」
その何げない科白に、美空の白い頬がうっすらと染まる。
男がやっと我に返ったような顔で、頭上を振り仰いだ。
