
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第12章 第四話・其の壱
しかし、この永瀬は一見したところ、そのような女傑には到底見えない。甲高いキンキンとした声が特徴的で、いつもせかせかとした脚取りで動いている。外見だけでいえば、尾張藩邸の老女唐橋の方がよほど落ち着いていて、重みもあるだろう。
が、この外見だけで惑わされてはいけない。永瀬の眼光は鋭く、いつも笑っているように見える細い眼は、何でもお見通しである。親しみやすい第一印象だけで判断してしまうと、後で自分自身が泣く羽目になる。やはり、流石は先代総取締に見込まれ、引き立てられた人物だけあり、その度胸も頭脳の明晰さも並大抵ではなかった。
むろん、美空はそのことを重々承知していたゆえ、この永瀬には一目置き、たとい御台所といえども一歩引いた接し方をしているつもりだ。
大体、大奥というのは、将軍が代変わりする毎に、御年寄を初め、様々な役職に就く者たちも顔ぶれが変わる。しかし、この永瀬は表の老中たちから是非にと懇願され大奥に残り、引き続き新将軍の御世にも奉公することが決まった女性なのだ。
つまりは、海千山千の老中たちからも評価されるほどの人物、辣腕の御年寄ともいえる。逆にいえば、永瀬の存在そのもの、その率いる大奥の存在は表の老中たちにとって、それだけの脅威にもなっている。
御年寄という立場は、男たちの活躍する表御殿でいえば、まさに〝老中〟にも匹敵する役職であり、相当の力量―ただ才覚だけではなく、あまたの奥女中を束ね、統率するだけの、まさに人を動かす力―を必要とされる。
この小柄な女のどこにそのような力が秘められているのか、一見しただけでは判らないが、よくよく付き合ってみれば、その人物の底知れなさにすぐに気付くというものだ。
永瀬は常と変わらず小走りに走るように歩いてくると、打掛の裾をさばくのももどかしげに座った。
が、この外見だけで惑わされてはいけない。永瀬の眼光は鋭く、いつも笑っているように見える細い眼は、何でもお見通しである。親しみやすい第一印象だけで判断してしまうと、後で自分自身が泣く羽目になる。やはり、流石は先代総取締に見込まれ、引き立てられた人物だけあり、その度胸も頭脳の明晰さも並大抵ではなかった。
むろん、美空はそのことを重々承知していたゆえ、この永瀬には一目置き、たとい御台所といえども一歩引いた接し方をしているつもりだ。
大体、大奥というのは、将軍が代変わりする毎に、御年寄を初め、様々な役職に就く者たちも顔ぶれが変わる。しかし、この永瀬は表の老中たちから是非にと懇願され大奥に残り、引き続き新将軍の御世にも奉公することが決まった女性なのだ。
つまりは、海千山千の老中たちからも評価されるほどの人物、辣腕の御年寄ともいえる。逆にいえば、永瀬の存在そのもの、その率いる大奥の存在は表の老中たちにとって、それだけの脅威にもなっている。
御年寄という立場は、男たちの活躍する表御殿でいえば、まさに〝老中〟にも匹敵する役職であり、相当の力量―ただ才覚だけではなく、あまたの奥女中を束ね、統率するだけの、まさに人を動かす力―を必要とされる。
この小柄な女のどこにそのような力が秘められているのか、一見しただけでは判らないが、よくよく付き合ってみれば、その人物の底知れなさにすぐに気付くというものだ。
永瀬は常と変わらず小走りに走るように歩いてくると、打掛の裾をさばくのももどかしげに座った。
