
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第12章 第四話・其の壱
永瀬は更に続けた。
「それに、御台さま。この際はきと申し上げれば、役者遊びをするまでゆかずとも、気に入りの役者に熱を上げ、錦絵を後生大事に隠し持つ程度のことまで、何ゆえ、ならぬと仰せなのでございましょうや。一生奉公といえば、生涯殿方にも嫁がず、女の歓びも幸せも一切知らずに終わるものにござります。好いた惚れたの心も何たるかを知らず、ただ公方さまを第一に忠勤を励んで一生を終わる―、もとより、それは自らの選びし道なれば、いささかの悔いもござりませぬが、さりとて、何の歓びも愉しみも知らずでは、あまりに哀れ。大奥の女たちが衣装や芝居に現を抜かすのにも、また、それなりの理由というものがあるのでございます。どうか、御台さま、我等のその心根も幾ばくかはご理解戴きとうございます」
有り体にいえば、永瀬は男も知らずに未婚のまま生涯を終える女の身にもなって欲しい、彼女たちにも多少の愉しみが許されても良いのではないかと訴えているのである。
もちろん、一生奉公とはいっても、皆が皆、すべて大奥を終(つい)の住み処とするわけではない。最下級のお末と呼ばれる下女や中堅どころの奥女中の中にも良縁を得て嫁ぐ者はいる。が、高位の役職に就く者であればあるほど、文字どおり一生を大奥勤めに捧げる傾向があり、永瀬はいわば、多くの奥女中たちの代弁をしたわけでもあった。
しかし、御台所付きの智島にとっては、永瀬の訴えは不快なものに思えたらしい。
智島は多少、声を高くした。
「永瀬さま、いかに大奥を束ねる総取締、御年寄でいらせられるとしても、今のおっしゃり様は御台さまに対して、ご無礼にござりましょう」
智島の立腹に対し、永瀬はその場にひれ伏した。
「それに、御台さま。この際はきと申し上げれば、役者遊びをするまでゆかずとも、気に入りの役者に熱を上げ、錦絵を後生大事に隠し持つ程度のことまで、何ゆえ、ならぬと仰せなのでございましょうや。一生奉公といえば、生涯殿方にも嫁がず、女の歓びも幸せも一切知らずに終わるものにござります。好いた惚れたの心も何たるかを知らず、ただ公方さまを第一に忠勤を励んで一生を終わる―、もとより、それは自らの選びし道なれば、いささかの悔いもござりませぬが、さりとて、何の歓びも愉しみも知らずでは、あまりに哀れ。大奥の女たちが衣装や芝居に現を抜かすのにも、また、それなりの理由というものがあるのでございます。どうか、御台さま、我等のその心根も幾ばくかはご理解戴きとうございます」
有り体にいえば、永瀬は男も知らずに未婚のまま生涯を終える女の身にもなって欲しい、彼女たちにも多少の愉しみが許されても良いのではないかと訴えているのである。
もちろん、一生奉公とはいっても、皆が皆、すべて大奥を終(つい)の住み処とするわけではない。最下級のお末と呼ばれる下女や中堅どころの奥女中の中にも良縁を得て嫁ぐ者はいる。が、高位の役職に就く者であればあるほど、文字どおり一生を大奥勤めに捧げる傾向があり、永瀬はいわば、多くの奥女中たちの代弁をしたわけでもあった。
しかし、御台所付きの智島にとっては、永瀬の訴えは不快なものに思えたらしい。
智島は多少、声を高くした。
「永瀬さま、いかに大奥を束ねる総取締、御年寄でいらせられるとしても、今のおっしゃり様は御台さまに対して、ご無礼にござりましょう」
智島の立腹に対し、永瀬はその場にひれ伏した。
