
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第12章 第四話・其の壱
「もとより、お叱りもお咎めも覚悟の上にございます。さりながら、御台さま、ご聡明なる御台さまでいらっしゃれば、必ずや我らの心もお汲み取りあそばして頂けるのではないかと、この永瀬は一縷の望みを託してご無礼も顧みず言上致しました。世間では御台さまの御事をあたかも夢物語の主人公のごとく申し上げる輩が多うございますが、ここまでおなりあそばされるまでには、相当のご苦労もおありであったと、拝察仕りまする。ゆえに、そのようなお方であれば、人の哀しみ、女の業のようなものも幾ばくかはご理解頂けるものと信じております」
「な、何と、無礼な。黙って聞いておれば、言いたい放題の数々ではございませぬか。永瀬さま、こちらにおわすのをどなたと心得られる、天下の将軍、公方さまのご正室でおわす御台所でいらせられますぞ」
智島が柳眉を逆立てて怒鳴った。
確かに、智島が怒るのも無理はない。永瀬は暗に、美空が市井の出ゆえ、これまでに〝成り上がり者〟と様々に蔑まれ、尾張藩内でもなかなかご簾中として認められなかった―そんなあれこれを指摘しているのだから。
しかし、そんな苦労をし、他人には言えぬ葛藤を経た身であればこそ、女の悲哀にも共感できるのではないか―、その永瀬の言い分にも確かに一理はあった。
現実として、生来、心優しい美空は小間物売りの女房から尾張藩主の妻、そして今また将軍の妻となるという運命の激変を経て、更に人間性を深めたともいえる。他者の痛みというものに対して、より鋭敏になることができた。
が、立場が次々に変わりゆくに従い、美空はまた上に立つ者は時に非情にもならねばならぬことを知った。慈しみと情、更にそれらの感情と相反する非情さ冷酷さをも併せ持たなければならないということも学んだ。
「な、何と、無礼な。黙って聞いておれば、言いたい放題の数々ではございませぬか。永瀬さま、こちらにおわすのをどなたと心得られる、天下の将軍、公方さまのご正室でおわす御台所でいらせられますぞ」
智島が柳眉を逆立てて怒鳴った。
確かに、智島が怒るのも無理はない。永瀬は暗に、美空が市井の出ゆえ、これまでに〝成り上がり者〟と様々に蔑まれ、尾張藩内でもなかなかご簾中として認められなかった―そんなあれこれを指摘しているのだから。
しかし、そんな苦労をし、他人には言えぬ葛藤を経た身であればこそ、女の悲哀にも共感できるのではないか―、その永瀬の言い分にも確かに一理はあった。
現実として、生来、心優しい美空は小間物売りの女房から尾張藩主の妻、そして今また将軍の妻となるという運命の激変を経て、更に人間性を深めたともいえる。他者の痛みというものに対して、より鋭敏になることができた。
が、立場が次々に変わりゆくに従い、美空はまた上に立つ者は時に非情にもならねばならぬことを知った。慈しみと情、更にそれらの感情と相反する非情さ冷酷さをも併せ持たなければならないということも学んだ。
