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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第12章 第四話・其の壱

「智島、そなたも今やこの大奥では御台所付きの御年寄、立場上は永瀬に次ぐ重いものぞ。昔と変わらず私一途に忠勤を励んでくれるのはありがたいが、皆に公平に接するように心がけねばならぬ」
「はい、さよう心得まする」
 澄ました顔で頷く智島だが、内心は御台さまひとすじの忠勤を止めるつもりなど毛頭ない。
 その微笑ましい主従の姿に、永瀬はそっとその場を離れた。
 風がどこからともなく吹く度に、はらり、はらりと桜貝を思わせる薄紅色の花片が舞う午後である。美空は永瀬が去った後も、何事か思案するような顔でずっと廊下に佇んでいた。

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