テキストサイズ

激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第13章 第四話・其の弐

 家俊はしばし幼い息子たちの無邪気に戯れ合う姿に眼を細めた。その横顔は紛れもなく子煩悩な父親のものだ。
 そんな家俊の嬉しげな顔を美空もまたこの上ないものに思いながら、春のひとときは穏やかに過ぎてゆく。最後に家俊が凜姫のあどけない寝顔をひとしきり眺めた後、三人の御子たちは乳母に連れられて退がっていった。
 漸く静かになった部屋で、美空はさりげなく言った。
「今日はお珍しきことにございますね。こうして昼間からお渡り頂けるとは思うてもみませんでした」
「そなたの部屋から眺める桜は格別であったと思い出してな。思い立ったら、無性に見て見たくてたまらなくなった」
 家俊はまるで悪戯っ子のような表情を浮かべた。こういったところは、昔と少しも変わらぬ良人だ。
「丁度、徳千代や孝次郞もおりましたゆえ、父上さまにおめもじが叶い、子らも歓んでおりましょう」
 政務で多忙を極める家俊が三人の子どもたちに対面する時間はなかなかない。徳千代にしろ孝次郞にしろ、家俊は大好きな父上なのだ。
「それに、お凜の顔も見られたしな。だが、今度は眠っているときではなく、起きているときに逢いたいものだ。いっそのこと、大声を出して起こそうかとも思うたが、無理に起こすのも可哀想だしな」
 三人の御子の中でも、やはり末っ子の凜姫は格別に可愛いらしく、早くも家俊は相好を崩している。
 家俊はふっと真顔になると、立ち上がった。
 そのまま部屋を横切り、縁側に立つ。
「真、ここからの眺めは良い。奥庭には桜も多いが、俺はこの部屋から見る花がいちばん好きだ」
 新婚時代と変わらず、二人きりで過ごす時間には〝俺〟と呼ぶ家俊であった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ