
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第13章 第四話・其の弐
重なり合った花、また、花。
美空の部屋から見える桜は、昨日、智島と廊下から眺めたものと同じだ。けれど、見る場所が違えば、また眺めも違う。
いや、一緒に眺める人が違うから、美空自身の心もまた違うのだろうか。
玉ゆらに 昨日の夕 見しものを
今日の朝に 恋ふべきものか
かつて家俊から求愛の言葉と共に贈られた想い出の歌を思い出す。出逢ったその瞬間から、この男に惹かれた。
この男と共に、どこまでも歩いてゆきたいと願い、いつまでもその傍にいたいと祈った。
その心が一つの揺るがぬ決意となり、今、美空はこの場所にいる。将軍家御台所というやんごとなき身となって―。
美空自身は、けして玉の輿を望んだわけではなかった。ただ愛する男の傍にいたいと願い、共に生きることを選んだ結果が、今の場所であっただけのことだ。
人はその数奇な運命をこの上ない幸運と呼び、夢物語のような立身出世だと言う。しかし、美空にとっては、御台所という地位も呼称も実は何の意味も持たない、もし幸福を感じるとすれば、今この瞬間、惚れた男の傍にこうして寄り添っていられること、ただそれだけのことに意味がある。
「いや、本音を申せば、桜が見たかったというよりは、そなたの顔を見たくなったからやもしれぬ」
殆ど満開の桜だが、一部にまだ愛らしい蕾が見える。家俊は縁に佇み、重たげに花をつけた枝を眺めながら、背を向けた格好で唐突にそんなことを言った。
いまだ開かぬ蕾に囁きかけるように、白い蝶が舞っている。あの蝶は、昨日、この部屋の近くの廊下で見かけたのと同じ蝶だろうか。
そんなことをとりとめもなく考えていると、家俊がまたも思いもかけぬことを言う。
美空の部屋から見える桜は、昨日、智島と廊下から眺めたものと同じだ。けれど、見る場所が違えば、また眺めも違う。
いや、一緒に眺める人が違うから、美空自身の心もまた違うのだろうか。
玉ゆらに 昨日の夕 見しものを
今日の朝に 恋ふべきものか
かつて家俊から求愛の言葉と共に贈られた想い出の歌を思い出す。出逢ったその瞬間から、この男に惹かれた。
この男と共に、どこまでも歩いてゆきたいと願い、いつまでもその傍にいたいと祈った。
その心が一つの揺るがぬ決意となり、今、美空はこの場所にいる。将軍家御台所というやんごとなき身となって―。
美空自身は、けして玉の輿を望んだわけではなかった。ただ愛する男の傍にいたいと願い、共に生きることを選んだ結果が、今の場所であっただけのことだ。
人はその数奇な運命をこの上ない幸運と呼び、夢物語のような立身出世だと言う。しかし、美空にとっては、御台所という地位も呼称も実は何の意味も持たない、もし幸福を感じるとすれば、今この瞬間、惚れた男の傍にこうして寄り添っていられること、ただそれだけのことに意味がある。
「いや、本音を申せば、桜が見たかったというよりは、そなたの顔を見たくなったからやもしれぬ」
殆ど満開の桜だが、一部にまだ愛らしい蕾が見える。家俊は縁に佇み、重たげに花をつけた枝を眺めながら、背を向けた格好で唐突にそんなことを言った。
いまだ開かぬ蕾に囁きかけるように、白い蝶が舞っている。あの蝶は、昨日、この部屋の近くの廊下で見かけたのと同じ蝶だろうか。
そんなことをとりとめもなく考えていると、家俊がまたも思いもかけぬことを言う。
