
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第13章 第四話・其の弐
「上さまが将軍職をお継ぎになって以来、奢侈禁止令をお出しになり、上は武士から下は町人まで皆が質素倹約に励んでおります。上さまがこのお触れをお出しになられたる理由は単に風紀をただすのみではなく、逼迫している幕府の財政を建て直すためもおありだと聞き及びおりまする。民が上さまのお出しになられた倹約令を守り、身を慎んでいるこの時期に、私のみがこのような高価な笄を賜ることはできませぬ。どうか、そのこと、ご寛恕下さりませ」
その言葉に、家俊があっという顔になった。
端整な面に烈しい驚愕と衝撃が走る。
美空は良人の前に両手をついた。
「ご無礼の数々はどうか平にお許し下さいませ。さりながら、皆が質素倹約に励んでいる今だからこそ、上に立つ私たちが自ら身を正してゆかねばならぬときかと存じます」
家俊から、しばらく言葉はなかった。
奢侈禁止令を出しておきながら、自分の妻には豪華な笄を贈ったことを、その妻自身からやんわりと戒められたのだ。
己れは質素倹約を固く守り抜いても、妻への贈物についてはそこまで深くは考えていなかった家俊であった。
「―俺が愚かであった」
短い静寂の後、家俊はポツリと呟いた。
何か言いかけるように家俊は口を開いて息を吸い込んだが、そのまま困ったように眉を下げ、美空の顔と笄を交互に眺めて、吸った息を吐き出した。
「所帯を持ってからというもの、一度として身を飾るような物を贈ったことなぞなかった。ふと思い立って、作らせたのだ。そなたには似合うと思うたのに、少し残念だな」
照れたような笑いを浮かべる良人に、美空は微笑む。
「先ほども申し上げましたように、私は今のままで十分幸せにございます。好いた方のお側にいられるだけで良いのです、私はもう他に望むことはございませぬ。私は上さまから頂ける幸せは、両腕に抱え切れぬほどたくさん頂きましたゆえ」
その言葉に、家俊があっという顔になった。
端整な面に烈しい驚愕と衝撃が走る。
美空は良人の前に両手をついた。
「ご無礼の数々はどうか平にお許し下さいませ。さりながら、皆が質素倹約に励んでいる今だからこそ、上に立つ私たちが自ら身を正してゆかねばならぬときかと存じます」
家俊から、しばらく言葉はなかった。
奢侈禁止令を出しておきながら、自分の妻には豪華な笄を贈ったことを、その妻自身からやんわりと戒められたのだ。
己れは質素倹約を固く守り抜いても、妻への贈物についてはそこまで深くは考えていなかった家俊であった。
「―俺が愚かであった」
短い静寂の後、家俊はポツリと呟いた。
何か言いかけるように家俊は口を開いて息を吸い込んだが、そのまま困ったように眉を下げ、美空の顔と笄を交互に眺めて、吸った息を吐き出した。
「所帯を持ってからというもの、一度として身を飾るような物を贈ったことなぞなかった。ふと思い立って、作らせたのだ。そなたには似合うと思うたのに、少し残念だな」
照れたような笑いを浮かべる良人に、美空は微笑む。
「先ほども申し上げましたように、私は今のままで十分幸せにございます。好いた方のお側にいられるだけで良いのです、私はもう他に望むことはございませぬ。私は上さまから頂ける幸せは、両腕に抱え切れぬほどたくさん頂きましたゆえ」
