
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第13章 第四話・其の弐
そして、随明寺で運命の再会を果たした日。孝太郎が美空に贈ったのは、この水仙の櫛と柿本人麻呂の歌であった―。あのときから、二人の恋は始まった。
美空の顔に花のような微笑がひろがる。
「私にとっては大切な想い出の品でございますもの」
「そなたは真に変わらぬな」
家俊はそう言って、少し眩しげに妻を見つめた。妻を変わらないと言う良人もまた、このような情熱を秘めた瞳で妻を見つめるのも出逢った頃と変わらない。
「私はもう十分、身に余る幸せを頂きました。高価な笄や簪、豪奢な美々しい打掛、小袖、帯もすべて身に過ぎたものと心苦しく思うております。それに、私には、上さまより賜ったこの櫛一つさえあれば、それで十分なのです」
それは本心からの言葉であった。
惚れた男の傍にさえいられれば良い―、その想いだけでここまで来た美空であれば、本当のところ、家俊と三人の子どもたちの他には何も要らないのだ。
先刻から〝もうこれで十分〟と繰り返す妻を、家俊は笑いながら揶揄する。
「随分と欲のないことだな」
「いいえ、私は欲深い女にございますわ。ただ一人の、天下で唯一無二のお方をこうして独り占めしていたいと常に願うておるのでございますから」
「そのような願いであれば、幾ら願うたとて誰も困るまい」
家俊が心底嬉しげに言い、何かを思い出すような眼で呟く。
「それにしても、この櫛をそなたに与えたのは、まだ所帯を持つ前であったな。確か、もう六年前になるか」
懐かしげに語る良人に、美空も頷いて見せる。
「はい、まだ、上さまが小間物売りの孝太郎とおっしゃっていた頃のことにございます」
美空の顔に花のような微笑がひろがる。
「私にとっては大切な想い出の品でございますもの」
「そなたは真に変わらぬな」
家俊はそう言って、少し眩しげに妻を見つめた。妻を変わらないと言う良人もまた、このような情熱を秘めた瞳で妻を見つめるのも出逢った頃と変わらない。
「私はもう十分、身に余る幸せを頂きました。高価な笄や簪、豪奢な美々しい打掛、小袖、帯もすべて身に過ぎたものと心苦しく思うております。それに、私には、上さまより賜ったこの櫛一つさえあれば、それで十分なのです」
それは本心からの言葉であった。
惚れた男の傍にさえいられれば良い―、その想いだけでここまで来た美空であれば、本当のところ、家俊と三人の子どもたちの他には何も要らないのだ。
先刻から〝もうこれで十分〟と繰り返す妻を、家俊は笑いながら揶揄する。
「随分と欲のないことだな」
「いいえ、私は欲深い女にございますわ。ただ一人の、天下で唯一無二のお方をこうして独り占めしていたいと常に願うておるのでございますから」
「そのような願いであれば、幾ら願うたとて誰も困るまい」
家俊が心底嬉しげに言い、何かを思い出すような眼で呟く。
「それにしても、この櫛をそなたに与えたのは、まだ所帯を持つ前であったな。確か、もう六年前になるか」
懐かしげに語る良人に、美空も頷いて見せる。
「はい、まだ、上さまが小間物売りの孝太郎とおっしゃっていた頃のことにございます」
