
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第13章 第四話・其の弐
それでも、二人を繋いだ縁(えにし)の糸は途切れる事なく、続いていたのだ。二人の何度も切れそうになった縁の糸を辛うじて繋いでいたのは、心であった。互いが互いを想い合う心。家俊の傍にいたいという美空の心、美空が家俊の傍から黙って姿を消したときも、美空を信じようとした家俊の心。
家俊を想う心だけを頼りに、流れ流されて辿り着いた場所がまさか将軍御台所という立場、江戸城大奥だとは流石に想像もしていなかったけれど。
でも、自分の選んだ道には悔いはない。
美空は今、はっきりと己れにも他人にも胸を張って心から言える。
美空は嫣然と微笑し、家俊を見上げた。
「私の想いは、あの頃も今も、少しも変わりませぬ。徳平店にいた頃も、上さまがいつもお側にいて下さいましたゆえ、辛いことを辛いと思うたこともございませぬし、今もこうして、上さまのお顔を拝見することができまする」
「―そうか」
家俊は頷き、ふと思いついたように言う。
「一度、徳平店の者たちのことを調べさせてみるか。何か不自由があれば、それとなく助けても良いのではないか」
その申し出に、美空は緩く首を振った。
「上さまのお優しきお心は嬉しうございますが、恐らく、徳平店の人々はそのようなことをなさって頂いても、歓びはしないでしょう。たとえ貧しくとも、町人には町人の、長屋暮らしの人々にはその人々の暮らしや誇りというものがございます。ましてや、私たちはかつては徳平店で共に店子として暮らしていた身、その私たちが救いや助けの手を差しのべることを、彼等が憐れみ、同情と受け取ってしまったとしたら、哀しいことになります。やはり、彼等はそっとしておいて差し上げるのが良いかと存じまする」
家俊を想う心だけを頼りに、流れ流されて辿り着いた場所がまさか将軍御台所という立場、江戸城大奥だとは流石に想像もしていなかったけれど。
でも、自分の選んだ道には悔いはない。
美空は今、はっきりと己れにも他人にも胸を張って心から言える。
美空は嫣然と微笑し、家俊を見上げた。
「私の想いは、あの頃も今も、少しも変わりませぬ。徳平店にいた頃も、上さまがいつもお側にいて下さいましたゆえ、辛いことを辛いと思うたこともございませぬし、今もこうして、上さまのお顔を拝見することができまする」
「―そうか」
家俊は頷き、ふと思いついたように言う。
「一度、徳平店の者たちのことを調べさせてみるか。何か不自由があれば、それとなく助けても良いのではないか」
その申し出に、美空は緩く首を振った。
「上さまのお優しきお心は嬉しうございますが、恐らく、徳平店の人々はそのようなことをなさって頂いても、歓びはしないでしょう。たとえ貧しくとも、町人には町人の、長屋暮らしの人々にはその人々の暮らしや誇りというものがございます。ましてや、私たちはかつては徳平店で共に店子として暮らしていた身、その私たちが救いや助けの手を差しのべることを、彼等が憐れみ、同情と受け取ってしまったとしたら、哀しいことになります。やはり、彼等はそっとしておいて差し上げるのが良いかと存じまする」
