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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第14章 第四話・其の参

 美空の前に立ちはだかった男の一人が跪いた。
「御台さま、お言葉ながら、この部屋に監禁されておる矢代は既に罪が決まっておりまする。半月前、御台さま増上寺ご参詣のご代参をあい務めた際、役者風情と情を交わしたとは、破廉恥な行いをしでかした重罪人にございます。矢代はいわば科人、そのような者に御台さまがおん直々にお逢いになられたれば、御台さまのお立場にも障りがあるのではございませぬか」
―矢代の処分が既に決まっている!?
 美空は内心の動揺をひた隠しながらも、変わらず毅然とした態度で続ける。
「私の立場を心配する前に、そなたたちは自分たちの身の保身を計るが良い。仮にも大奥の主たる御台所のたっての願いを退けたと知れれば、後々、どのような咎を受けるかは判らぬぞ。そなたらにも妻や子はおろう。家族のためにも、無謀なことはせぬものぞ」
 妻子のことまで持ち出されては、流石に強面の男たちも退くより他なかったようだ。
 二人が不承不承脇によけると、一人が小声で言った。
「どうか短時間にてお願い申し上げまする。この事がご老中やお目付に知れれば、我ら、職務どころか生命まで危うくなるやもしれませぬゆえ」
 美空は、その言葉を背に受け、部屋に脚を踏み入れた。背後で襖が音を立てて閉まる。
 部屋へ入るなり、つんと鼻をついたのは長らく閉ざされたままであった部屋特有の黴臭さであった。
 それにしても、今朝、連行されたばかりだというのにも拘わらず、もうその処分が決まったというのは、幾ら何でもあまりに早急すぎはすまいか。
 美空はあまりに早すぎる措置に驚愕すると共に、その事自体に不自然なものを感じずにはいられなかった。何かの作為―、故意に矢代を陥れようとする何者かの悪意をひしひしと憶えた。

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